経済産業省と東京証券取引所(JPX)が、「サステナビリティ・トランスフォーメーション銘柄」(SX銘柄)を創設した。
投資家との建設的な対話を通じて、社会のサステナビリティ課題やニーズを自社の成長に取り込む。同時に、必要な経営改革、事業変革によって、長期的で持続的な企業価値の創造を進める先進的な企業を、SX銘柄に選定、表彰するというものだ。2023年2月10日の発表。
今後、「SX銘柄評価委員会」を発足させて、審査基準を策定する。7月頃に「SX銘柄2024」を公募する。選定結果は、24年春頃に公表する予定だ。 毎年10社程度を選び、国内外の投資家に積極的にアピールする。
社会課題で事業成長を取り込む企業を選定
「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」とは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化させ、そのために必要な経営改革や事業変革を進めていく取り組みをいう。
これまで、日本企業の資本効率性や長期的な成長に向けた投資は伸び悩み、TOPIX(東証株価指数)500を構成する企業の4割以上が「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ(PBR=1倍が株価の底値の目安とされる)」という状況にある。
「稼ぐ力」や長期的な企業価値の向上は、今や待ったなしの状況だ。
さらに、気候変動や地政学的リスクといったサステナビリティな課題がますます複雑化するなか、企業活動の持続性に大きな影響を及ぼしている。
そうした中で、経済産業省は2021年5月に企業や投資家、有識者から成るSX研究会を立ち上げた。東証もオブザーバーとして参加。長期的で持続的な企業価値の向上に向けて議論を重ねてきた。
その議論の成果を22年8月に「SX版伊藤レポート(伊藤レポート3.0)」と「価値協創ガイダンス2.0」として取りまとめ、公表した。
このレポートで示された「SX実現のためのフレームワーク」では、価値観や長期戦略、実行戦略、KPI、ガバナンスの5つの大枠を設定。投資家との対話を通じて磨きをかけていくことで、中長期的な価値の向上につなげることを想定している。
「日本株離れ」防ぎ、投資家呼び込む
SXの中には、GX(グリーントラストフォーメーション=クリーンなエネルギーを活用していくための変革や、その実現に向けた活動)も内包されている。
伊藤レポートでは、GXを「気候変動をはじめとする幅広いサステナビリティ課題を対象とするSXの中に位置づけて取り組む」ことを求めている。
経済産業省ではSX銘柄を通じて、投資家との対話を通じて自社の成長にサステナビリティ課題を取り込むなどして、長期的かつ持続的な企業価値の向上を促していきたいとしている。
「SX銘柄」の創設には、「日本株離れ」を防ぎたいとの狙いもある。
SX銘柄を公表することで、(1)企業経営者の意識変革を促し、投資家との対話、エンゲージメントを通じた経営変革を期待。そのうえで、(2)国内外の投資家に対して、こうした日本企業の変革の方向性を知らせることで、今後の日本株全体への再評価と新たな期待形成につなげていく。
「SX銘柄2024」発表後には、国内外の投資家に向けてアピールすることを検討する方向で、イベントなどで大々的に紹介していく計画という。
こうした経産省と東証の取り組みは、これまでに「なでしこ」銘柄や「DX(デジタルトランスフォーメーション)銘柄」がある。
「なでしこ銘柄」は、2012年度から実施。女性活躍推進に優れた上場企業を、中長期の企業価値の向上を重視する投資家にとって、魅力ある銘柄として紹介する。それを通じて、企業への投資促進と、企業の女性活躍やジェンダー平等の取り組みを加速することを狙ったものだ。
なでしこ銘柄には、カルビーや味の素、伊藤忠商事、J.フロントリテイリング、三菱UFJフィナンシャル・グループ、帝人、オムロン、島津製作所などが選ばれている。
なでしこ銘柄はTOPIX、売上高営業利益率のどちらにおいても他の銘柄と比べて高い数値を示す、優良銘柄といえる。
話題性、PR効果...「国」が後押し?
また、「DX銘柄」はデータとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに製品やサービス、ビジネスモデルを変革。企業価値の向上につながるDXを推進するための優れたデジタル活用の実績が表れている企業を選定して紹介する。
2022年6月7日に発表された「DX銘柄2022」の選定企業は、グランプリを獲得した中外製薬と日本瓦斯と、清水建設、サントリー食品インターナショナル、旭化成、IHI、日立製作所、商船三井、ANAホールディングス、KDDI、ふくおかフィナンシャルグループ、三井不動産などが選ばれた。
DX関連銘柄には、一部にテンバガー株(株価が約10倍になった銘柄、なりそうな銘柄)に急成長した銘柄が含まれる。そのほか、AI(人工知能)やクラウドといったDXはマーケットで最も注目されているテーマの一つ。「伸びしろ」が期待できる銘柄といえそうだ。
こうした「テーマ銘柄」は、投資家が企業(銘柄)を選ぶときに、企業の取り組みが「わかりやすい」というメリットがある。しかし、いずれも誰もが知っている、ピカピカの上場企業ばかり。個人投資家やアナリストからは、
「話題にのぼることは悪いことではないが、国が企業のPRを後押ししているみたいで嫌らしい」「結局は資金力と人材が豊富なプライム(旧東証1部)企業が、国の『お墨付き』をもらうことを目的に頑張っていますというアドバルーンでしかない。そんなことにお金を使うなら、株主や社員に還元してもらいたい」
などと辛らつな声も漏れている。