日本航空(JAL)子会社の格安航空会社(LCC)ジップエア・トーキョーは「2023年4月から成田~ホノルル線でカーボンニュートラル(二酸化炭素=CO2排出量の実質ゼロ)を実現する」と2023年2月21日に発表した。通年でカーボンニュートラルのフライトを行うのは世界初だという。一体どういうことなのか。
年間燃料搭載量の約1%をSAF(持続可能な航空燃料)に置き換え、排出権取引制度を活用
ポイントの1つは「SAF=Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)」と呼ばれる脱炭素燃料だ。SAFは主に植物などバイオマス由来の原料や、飲食店や生活の中で排出される廃食油などを原料にしている。
ところが、現状でSAFは従来のジェット燃料に比べて「製造コストが2~10倍かかる」(業界関係者)という。バイオマスや廃食油など十分な原料の確保も必要で、安定的な製造とコストダウンが当面の課題だ。このため、今回ジップエアが成田―ホノルル線で使うSAFは、年間燃料搭載量の約1%にとどまるという。
では、どうやって通年でカーボンニュートラルを実現するのか。それが、第2のポイントとなる「排出権取引制度」の活用だ。
これに関して、ジップエアが国内で利用するのは「J―クレジット」と呼ばれる制度だ。
企業や団体が省エネや再生可能エネルギーを導入したり、適切な森林の管理で吸収したりしたCO2削減分を政府が「クレジット」(相手を信用して取引する権利)として認証。ジップエアがこれを購入することで、CO2を削減したとみなすというわけだ。
海外では国際民間航空機関(ICAO)が定めた民間航空会社用のカーボン・オフセットの認証クレジットを購入することで、同様にCO2を削減したとみなすという。
つまり、ジップエアが通年で世界初のカーボンニュートラルを実現したとしても、現実に脱炭素燃料の利用はわずか約1%で、残りは排出権取引による理論上の「排出ゼロ」に過ぎないということになる。
ジップエア西田社長「まずは価格転嫁を考えずに...」 コスト管理の見極め、ブランド価値向上へ
とはいえ、わずか1%とはいっても、SAFの購入はジェット燃料に比べ割高で、クレジットの購入にも応分のコストがかかる。
LCCは文字通り「格安」の航空チケットが売り物のはずだが、なぜあえてコストプッシュ要因の事業に取り組むのか。航空運賃への価格転嫁に結び付くのではないか......そんな疑問も出るところだ。
これについて、ジップエアの西田真吾社長は記者会見で「まずは価格転嫁を考えずに、自社のコスト管理で対応したい」と語った。ジップエアは成田空港を拠点に、北米やアジアなどに国際線6路線を運航。23年度にサンフランシスコやマニラにも就航する計画だ。
西田社長は詳細なコスト管理については明かさなかったが、2025年度には全路線のCO2排出を実質ゼロにすることを目指すとしている。ほかにも、コスト削減の余裕があるということなのかもしれない。
脱炭素はどの業種にも共通の課題だ。
トヨタ自動車の場合、電気自動車の導入を高級ブランドの「レクサス」から進めるが、これは、脱炭素のために必要なコスト負担を富裕層のユーザーに求めやすいからだ。
JALグループは排出量取引を含まずに航空機のCO2排出の実質ゼロを2050年に実現する方針だ。トヨタとは逆に、まず格安航空のジップエアを先行させる。これにより、カーボンニュートラルにかかるコスト管理を見極めるとともに、グループ全体のブランド価値向上に役立てる戦略のようだ。(ジャーナリスト 済田経夫)