気球をめぐる問題で、米中両国の緊張が高まっている。中国はなぜ、あのような行動を起こすのか? 中国を知るうえで役に立ちそうなのが、本書「現代中国がわかる最強の45冊」(扶桑社)である。知識ゼロから学ぶための必読書を挙げている。
「現代中国がわかる最強の45冊」(中川コージ著)扶桑社
著者の中川コージさんは、慶応義塾大学商学部卒業後、北京大学大学院光華管理学院博士課程修了。デジタルハリウッド大学大学院特任教授、「月刊中国ニュース」編集長などを歴任。著書に「巨大中国を動かす紅い方程式」「デジタル人民元」がある。
中国の統治機構、政治、経済、言語、歴史、人々の暮らし、台湾問題など8つの章からなり、45の必読書を紹介する形で、現代中国を体系的に理解できるようになっている。何冊かポイントを絞って取り上げてみよう。
「反中」でも「親中」でもなく、まずは「知中」を
中国を「傍らにある存在としてクールに見つめること」で、「『反中』でも『親中』でもなく、まずは『知中』」から始まり、「我が国の長期総合的な平和と繁栄を勝ち取りに行く」というのが、中川さんのスタンスだ。
現代中国の概論に相当するのが「統治機構」だ。
中国の「異質」な統治機構さえ把握できれば、ほかのことは芋づる式に理解できるという。最初の1冊が「よくわかる現代中国政治」(川島真・小嶋華津子編著、ミネルヴァ書房)だ。現代中国研究者の「オールスター揃い踏み」で、教科書的に読むこともできるが、論調もバラエティーに富むという。
中国の「外交と国際政治」を理解するために、挙げているのが、「中国の行動原理」(益尾知佐子著、中公新書)である。
副題が「国内潮流が決める国際関係」とあるように、中国の場合、外交の8割、9割は内政のスケジュールや方向性で決まるという。なぜそうなるのか。「ややもすると即座に国内統治が不安定になりがちなところへ、中国共産党が統治の安定性を、党としての最上課題に掲げているから」と説明している。
中国の外交が、同盟関係や政治価値観などではなく、はるかに内政事情に引きずられているという指摘は重要だ。
アメリカのトランプ政権時代に始まった米中貿易戦争。そして、新型コロナウイルス感染を通じて、アメリカでは対中関係を見直す動きが加速。現在進行形で、気球問題が浮上している。
「米中対立」(佐橋亮著、中公新書)は、米中対立の本質を解説した本だ。「成長した中国が諸々の問題を作り出したことは事実だが、米中関係を一新させるようにまず動いたのはアメリカだからだ」と指摘している。
中国は「闘いません、勝つまでは」という長期戦略でアメリカと対峙していこうという時間を味方につけた戦略なので、「状況を早急に打破しなければならない」とアメリカ側が先に動くのは自然なことだ、と中川さんは見ている。
「経済安全保障」という新しい視点で書かれたのが、「経営戦略と経済安保リスク」(國分俊史著、日本経済新聞出版)である。「企業から見た国際関係」を網羅的にまとめており、企業人やこれから就職する人にも役立つと勧めている。
デジタルで影響力広げる中国
中国ではテック産業分野だけはベンチャー企業が群雄割拠し、巨大企業に成長するところが出ている。
「チャイナ・イノベーション」(李智慧著、日経BP社)の副題は「データを制する者は世界を制する」。中国ではテック産業に対してどういう政策があり、どういう状況になっているかが書かれている。
中川さんの自著「デジタル人民元」(ワニブックスPLUS新書)も取り上げている。
中国が経済を政治のツールとして、どのように使っていくのかという観点で書かれた本。人民元を基軸通貨にマネージメントを多角化する中国共産党を侮るなかれ、と警告している。
「チャイナ・アセアンの衝撃」(邉見伸弘著、日経BP社)は、コンサルタント的な、企業的な観点でデータに基づいて書かれた本。アセアン諸国と中国の結びつきは、我々が想像する以上に、加速度的に強まっているのが実態だという。経済的には中国に生殺与奪を握られているというのだ。
「幸福な監視国家・中国」(梶谷懐・高口康太著、NHK出版新書)は、「監視されていることによって利便性が非常に高く、それを称賛とまではいかないまでも、十分に支持しているような一般の人民もいます」といった文脈で書かれているという。
監視国家は、そこに住む人民にとって暗黒的だけなのか(いやそうでもなかろう)という視点がおもしろい、と評価している。監視の度合いが増すと、犯罪は減る。個人情報を取られるのと引き換えにしても、それを上回る便益があるとする考えだ。
「デジタル化する新興国」(伊藤亜聖著、中公新書)は、中国で育ち、国内を巨大な実験場として実証実験を繰り返したチャイナデジタルテクノロジーがインド、東南アジア、そしてアフリカ諸国にまで広がっていることを書いている。
新世代エンタメ・トレンドを示す本として取り上げているのが、世界的なベストセラーになったSF小説「三体」(早川書房)だ。
中国では規制があるからSFが開花するのは無理と思われていたが、世界に通用してしまったことがショックを与えたそうだ。チャイナコンテンツの転換点と評価している。
「中国テレビ番組ガイド」(岩田宇伯著、パブリブ)は、各地で視聴者が観られるチャンネルは数十から100近くにもあるテレビ番組の状況を紹介した本。プロパガンダと知りつつ楽しむ文化、たくましさが生まれている、と書いている。
評者もケーブルテレビを通じて、たまに中国の番組を見ている。中国の公安警察が外国勢力と結託した産業スパイを摘発するという番組は、プロパガンダと思い見始めたのだが、これがエンタメとしても十分に成立している。
異質で巨大な隣国、中国を知らずして日本は立ち行かないだろう。本書が取り上げたものを含めて、中国に関する本は読んできたつもりだが、読むべき本がまだまだ多いことに改めて気づかされた。(渡辺淳悦)
「現代中国がわかる最強の45冊」
中川コージ著
扶桑社
1870円(税込)