「安全運転」の中に見えた「黒田日銀」への批判と改革路線
「安全運転」にみえる答弁の中にも、今後の政策修正を強く示唆する内容だったと指摘するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏が、リポート「植田新総裁候補の所信聴取:慎重な答弁も現在の政策の問題点を明確に指摘し、政策修正を示唆」(2月24日付)のなかで注目したのは、これまでの日銀の金融政策の効果を明確に否定する発言があったことだ。
「国債買い入れを通じた政策効果については、明確に否定したことだ。国債買い入れを増加させることで金利が低下するのであれば、政策効果を発揮するが、もはや金利低下余地がないことから、国債買い入れを通じた政策効果には期待できないとの趣旨の発言も聞かれた。これは、従来の政策の枠組みを否定するものだ。
さらに、過去10年にわたる異例の金融緩和が期待されたほどの効果を発揮しなかった理由については、金利低下余地が限られていたことを上げた。これらの点から、植田氏は、量的な政策の効果に懐疑的である一方、金利を通じた金融政策についても、その効果に懐疑的であることが読み取れる。
また、実質賃金の上昇を通じて国民生活を改善させる、あるいは潜在成長率を高める生産性上昇の重要性に言及する一方、それは金融政策では対応できないもの、として、金融政策の限界にも触れたのである」
こうしたことから、木内氏は「植田日銀」の今後の政策修正をこう予想する。ポイントを整理すると、次のようになる。
(1)植田氏は、黒田路線を一気にひっくり返すのではなく、YCC(イールドカーブ・コントロール)、資産買入れ策など個々の政策について、効果と副作用を分析したうえで、副作用の軽減に資するような修正を段階的に講じていく。
(2)その中で、マイナス金利政策、YCCが撤廃されていく。それが、植田氏が語る「金融緩和の継続が適当」の真意であり、ゆっくりと時間をかけて、金融政策は大きく修正されていく。
(3)まずは、YCCの大幅な見直しが考えられる。YCCのもとで大量の国債買入れを余儀なくされている現状をすぐに変える必要があり、4月にもYCCの変動幅の上下1%などへの再拡大、あるいは変動幅の撤廃が予想される。
(4)その後、政府との協議を経て、年内に2%の物価目標を中長期に位置付け直す修正が行われる。これが、本格的な金融緩和の枠組みの見直しに道を開くことになる。
ただし、木内氏はこう結んでいる。
「内外経済の減速、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測などを受けて、本格的な金融緩和の枠組み見直しに着手するまでには時間をかけるのではないか。
マイナス金利政策の終了、YCC廃止、オーバーシュート型コミットメント撤廃を踏まえた長期国債の残高削減、ETF(上場投資信託)のオフバランス化などの本格的な政策修正は、2024年半ば以降に、順次着手されていくものと見ておきたい」
(福田和郎)