「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
半導体競争の「最終レース」にギリギリ間に合った日本
2月20日発売の「週刊ダイヤモンド」(2023年2月25日号)の特集は、「半導体 最後の賭け」。世界一の座から陥落した国内半導体産業に、千載一遇のチャンスが訪れているという。米国・台湾と連携する「国策半導体プロジェクト」の行方を追っている。
米国は中国半導体産業の息の根を止めようと、中国を排除した半導体サプライチェーンを構築する枠組み「チップ4」を結成、米国、日本、韓国、台湾が参加した。しかし、4カ国それぞれの思惑が交錯する「呉越同舟」連合だという。
韓国の半導体ビジネスの最大の顧客は、中国だ。台湾は、本音では自国だけに最先端の量産技術を囲み込みたいが、台湾有事などの緊急事態に備え、日米欧に進出し生産の分散化を図るのが得策だと判断したようだ。
こうした特殊事情が重なり、半導体競争の「最終レース」に日本がギリギリ間に合ったという見立てだ。
◆最先端の半導体めざす「ラピダス」
そして、2つの国策プロジェクトが動き始めた。台湾のTSMCの量産工場の国内誘致と国策半導体会社ラピダスの設立だ。前者はミドルクラスロジック半導体の量産、後者は最先端ロジック半導体の施策・量産に特化している。
ラピダスにはソニーグループ、トヨタ自動車など8社が出資している。同社が目指すのは回路線幅2ナノメートルの半導体。まだ世界に存在していない難航必至のプロジェクトだ。
この最先端技術をラピダスに供与するのが、米IBM。ラピダスは社員をIBMの半導体研究施設に派遣して技術を習得し、25年前半までに国内に試作ラインを立ち上げる計画だ。
開発・試作にかかる資金は約2兆円。量産化の設備投資には3兆円規模が必要になるが、今のところの資金は、政府の補助金と国内8社の出資金の計730億円にすぎない。
民間から資金を引き出してプロジェクトの独り立ちを図るには、ユーザー企業を獲得できるかどうかにかかっているという。
確実な顧客としてラピダスに技術を供与するIBMを挙げている。
IBMは製造工場を持たないため、自社で設計した半導体の生産を外部に委託しなければならない。韓国サムスン電子に3ナノメートルの技術を供与し、量産に乗り出している。IBM陣営を拡大して、25年の2ナノメートル半導体の量産に自信を見せる台湾TSMCに対抗する狙いもある。
ラピダスの最大の課題は、IBM以外の企業からの需要をほとんど見通せないことだ、と指摘している。対するTSMCは、米アップルのiPhone用の半導体の大量生産を請け負うだけでなく、IT大手の大口顧客を抱える。さらに20~90ナノメートルといった旧式設備もそろえて車載用半導体など幅広い需要に応じている。
TSMCの「大量生産・低コスト・全方位」に対して、ラピダスは「最先端の半導体をプレミアム価格で提供する」という戦略で対抗する。こうした差別化戦略が顧客の理解を得られるのか。まずは、ソニーグループやトヨタ自動車、NTTなど出資企業を味方につける必要があるようだ。
「もうけの仕組み」が変わりつつある
「週刊東洋経済」(2023年2月25日号)の特集は、「徹底図解 もうけの仕組み100」。
デジタル化、原料価格高騰、脱炭素化......。ビジネス環境が激しく変化する中、変わるビジネスモデル。100業界をピックアップして、各業界の「もうけの仕組み」を「見える化」した。
体系的に理解するために9つのモデルを示している。井上達彦・早稲田大学教授の分析をもとに、売り上げを生み出す「もうけの源泉(横軸)」と、売り上げの流れをつくる「もうけの獲得方法(縦軸)」の2軸で整理した、ユニークなものなので紹介しよう。
1 製造販売モデル 製品やサービスを開発・製造し、提供 電子部品、自動車など
2 流通小売りモデル 商品を仕入れて、販売 百貨店、コンビニなど
3 合算モデル 目玉商品で、まとめ買いやついで買いを誘引する スーパーなど
4 継続モデル 製品やサービスを定期的に使い続ける 携帯電話事業者など
5 フリーミアムモデル 無料版を試してもらい、必要な場合は有料版に移行してもらう ゲームなど
6 設置ベースモデル ベースとなる製品の価格を抑え、消耗品やメンテナンスで稼ぐ 建設機械、プリンターなど
7 広告モデル 商品やサービスを無料にして、広告料を得る グーグル、メタなど
8 マッチングモデル 製品やサービスの提供者と利用者を仲介する 証券、クレジットカードなど
9 補完財プラットフォームモデル 外部から製品やサービスを提供してもらうことで自社製品の価値を高める 任天堂とソフトなど
9つのモデルを基に同じモデルの別業界との共通点を探したり、違うモデルの業界と比較したりすれば、業界・企業の強みがより浮き彫りになる、と説明している。
100業界の業績トレンド、10年後の天気予報、特徴をまとめている。
たとえば半導体。業績トレンドは上向きで、天気予報も晴れになっている。もうけの仕組みも進化し、「水平分業化」が進んだ、と指摘している。
それぞれの工程を専門とする企業が登場し、役割分担が進んだ。半導体の設計を専門とするメーカーは工場を持たないことから「ファブレス」と呼ばれる。設備投資を最小限に抑えながら、規模を拡大し、高い収益性を確保している。
そうしたファブレスメーカーの製品を製造するのが、ファウンドリーという受託製造会社だ。代表的なのが台湾のTSMC。日本勢はそうしたメーカーに供給する製造装置や材料の分野で強みを持っている。
半導体の製造には国をまたいで多くの企業がかかわっているが、コロナ禍で発生した半導体不足、ウクライナ危機で露呈した地政学リスクを考慮し、自国に製造拠点を構える動きが加速しているという。
AI、データセンター、EVなど、半導体を必要とする製品は今後も確実に成長するため、どのように製造の体制を整えていくのか、変化の時を迎えている。
ゲームは「買い切りから運営型が主流に」、総合商社は「トレードと事業投資の二刀流」、医薬品は「1つのヒットで巨額開発費を回収」、音楽は「サブスク時代で変わる稼ぎ方」、広告は「安定収益狙いコンサルへ進出」、メガバンクは「海外資金利益が国内に肉薄」など...稼ぎ方はさまざまな業界で変わりつつある。
自分が関係する業界だけでなく、他の業界の変化を知ることでヒントを得られるかもしれない。
世界経済の主役は「グローバルサウス」に
「週刊エコノミスト」(2023年2月28日号)の特集は、「戦争で変わる世界経済」。ロシアのウクライナ侵攻から1年。変わる世界の経済秩序をレポートしている。
支援で疲弊する西側諸国に対し、主役は中国やインド、トルコといった新興国・発展途上国からなる「グローバルサウス」になるという指摘が新鮮だ。
日本総合研究所会長の寺島実郎氏は、「世界を単純に二極に分断するな」というメッセージを彼らは発していると説明する。
ところで、ウクライナ戦争の今後の見通しはどうなのか。東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠氏は、「ロシア、ウクライナとも戦意は衰えず、停戦まで3年はかかる」と見ている。
停戦の行方について、元外務省欧亜局長の東郷和彦氏は、「クリミア半島維持が最低条件。プーチン氏に『逃げ道』を認めよ」と提言している。終戦の難しさを知る日本だからこそ、停戦を粘り強く仲介すべきだというのだ。
◆日銀新総裁に植田和男氏起用、市場は好感
日銀新総裁として、経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏を起用する人事案を政府が14日(2023年2月)国会に提示したことに触れていう。市場関係者に好感されているが、異次元緩和の修正という「いばらの道」が待ち受けると見ている。
「週刊ダイヤモンド」も、植田氏の起用は「政治の過剰介入」の流れを断ち切る思惑もあったと見られると好意的に取り上げている。
また、「週刊東洋経済」は、植田氏は、金融緩和路線を続けるハト派なのか、引き締めに転じるタカ派なのかは見方が定まっていないとしたうえで、「極めて難しい舵取りが求められている」と書いている。(渡辺淳悦)