「無名」指名で安倍派の批判かわす 総理の作戦勝ち?
岸田首相にも雨宮氏を総裁にできない事情があった。
新総裁の条件として掲げた条件の中に、米連邦準備制度理事会(FRB)など、海外の中銀トップと渡り合える国際性があったからだ。この点で、雨宮氏の評価は高くなかった。
これに対し植田氏は、米マサチューセッツ工科大で金融政策の権威、スンタレー・フィッシャー氏に師事した。同時期にバーナンキ元FRB議長なども学んでおり、国際的な人脈が太い。
さらに、岸田首相には植田氏を起用する利点もあった。
2005年に日銀審議委員を退任している植田氏は、政界ではほぼ無名の存在。知られていないということは、敵視する人もいない、ということでもある。日銀総裁交替を機に、大規模緩和やアベノミクスの修正を警戒する安倍派などの批判をかわすのには適任というわけだ。
複雑化した金融政策についても、新たな副総裁に日銀理事として金融政策を担ってきた内田真一氏を付ければ心配はない。
岸田首相の読み通り、植田氏の総裁起用の一報が流れても自民党内から強い反対意見が出ることはなかった。
「今回は総理の作戦勝ちだ」。首相に近い関係者はこう指摘している。(ジャーナリスト 白井俊郎)