岸田文雄首相が2023年2月14日、4月で任期満了となる黒田東彦・日銀総裁の後任候補の人事案を国会に提示した。経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏(71)。就任すれば、学識者では初の日銀トップとなる。
その人事は極秘裏に進められた。
人選は首相に近いごく少数のメンバーで 完璧だった「情報の保秘」
「絶妙な人選だった。副総裁を含めバランスが取れており、文句のつけようがない」
自民党関係者がこう指摘する。
複数の政府関係者によると、岸田首相が新総裁選びを水面下で始めたのは2022年のことだ。人選は首相に近いごく少数のメンバーで進められたという。
岸田首相は重要な政策決定に際し、自民党の麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長に事前に内容を伝え、内諾を得ることが多い。
3人は23年2月8日にも会食を持った。その場で岸田首相は「後任が固まった」と伝えたものの、誰かという固有名詞は頑なに秘密にしたという。
首相が自民党や公明党の幹部に「後任は植田氏」と伝えたのは2月10日午後になってからだった。東京証券取引所での売買が終わるのを待ってから一斉に電話を鳴らした。
情報はすぐにメディアにも伝わり、市場を含め大混乱に陥った。それまでの下馬評に、植田氏の名前はまったく挙がっていなかったからだ。
官邸関係者は「情報の保秘は完璧だったね」とほくそえんだ。