加盟国の人権状況を定期的に審査している国連の人権理事会が2023年2月3日、日本の人権状況ついて6年ぶりに審査を行い、死刑制度の廃止を求める勧告を含んだ報告書を採択した。
死刑制度存続は55か国 OECD加盟国36カ国では、日本、米国、韓国のみ
国連では「死刑廃止を目指す市民的及び政治的権利に関する国際的規約第2選択議定書」(死刑廃止条約)を1991年7月に発効しており、日本はこれまでに何度も国連から死刑制度の廃止を求める勧告を受けているが、未だに批准していない。
世界の状況はどうか。2020年末時点で、刑罰として死刑を廃止している国は108か国。軍法下や特異な状況における犯罪など例外的な犯罪を除いた通常犯罪では死刑を廃止している国が8か国。10年以上の間、死刑が執行されておらず、事実上の死刑制度廃止国が28か国。以上の合計144か国が廃止国として数えられており、死刑制度が存続している55か国を大きく上回っている。世界では「死刑廃止」が潮流となっている。
OECD(経済協力開発機構)加盟国36カ国のうち、死刑制度があるのは日本、米国、韓国の3カ国のみ。韓国は通常犯罪に対して死刑制度はあるものの、過去10年間に執行はされていない。EU(欧州連合)は、「いかなる罪を犯したとしても、すべての人間には生来尊厳が備わっており、その人格は不可侵である」との考え方をしている。
2016年12月には、国連で6回目となる「死刑廃止を視野に入れた死刑執行停止を求める決議」が採択され、日本を含めた死刑廃止条約に加わっていない国に対して、批准を検討することが求められた。
また、2018年3月には、国連人権理事会が「人権状況の対日審査」の勧告を出しているが、日本政府は死刑制度の廃止や一時停止を求める勧告の受け入れを拒否した。その理由は、「死刑制度を容認する国内世論」というものだった。
死刑制度を「廃止すべき」9.0%、「わからない・一概に言えない」10.2%、「やむを得ない」80.8% 内閣府調査
たしかに、日本では死刑制度を容認する世論が根強い。
直近の調査となる2019年度の内閣府の全国の3000名を対象に実施した「基本的法制度に関する世論調査」では、「死刑は廃止すべきである」の9.0%、「わからない・一概に言えない」の10.2%に対して、「死刑もやむを得ない」が80.8%と、8割を超える人が死刑制度を容認している。(表1)
死刑制度を容認する理由としては、下記のようになっている。
「死刑を廃止すれば、被害を受けた人やその家族の気持ちがおさまらない」56.6%
「凶悪な犯罪は命をもって償うべきだ」53.6%
「凶悪な犯罪を犯す人は生かしておくと、また同じような犯罪を犯す危険がある」47.4%
「死刑を廃止すれば、凶悪な犯罪が増える」46.3%
この比率はこれまでの世論調査でも、ほぼ同じだ。
つまり、死刑制度容認の主な理由は、被害者(遺族)感情に対する配慮、国民感情、犯罪抑止力ということになろう。
今回の勧告に対しても、斎藤健法相は6日の衆院予算委員会で、「廃止は適当ではない」との認識を示している。同法相は、「凶悪殺人がいまだ後を絶たない」として、「著しく重大な凶悪犯罪をした者に対しては、死刑を課することもやむを得ない」と強調している。
だが、憲法第36条では「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」と定めている。つまり、政府(公務員)による死刑執行が残虐な刑罰に当たるとの考え方から、憲法学者の中には「死刑は憲法違反」との説もある。
また、誤審や冤罪の場合には、死刑を執行してしまえば取り返しのつかない事態になる。そのため、死刑制度を廃止して、欧米で採用されている仮釈放のない「終身刑」を導入すべきとの意見もある。
もっとも、前述の世論調査では、「仮釈放のない終身刑が新たに導入された場合、死刑を廃止する方がよいか」との質問に対して、「廃止しない方がよい」と回答した人が52.0%に上っている。
6月の国連理事会までに、勧告を受け入れるどうか判断 勧告に法的拘束力はない
だが、死刑制度を存続させていることのデメリットもある。
たとえば、日本人犯罪者が死刑制度を廃止している国に逃亡して捉えられ、日本で死刑になる可能性がある場合に、逃亡先の政府が犯人の引き渡しを拒否するケースもあり得るし、捜査協力や司法協力を拒まれる可能性もある。
日本国民の多くは「平和憲法」を支持している。
広島・長崎への原爆投下という悲惨な体験と多くの犠牲者を出した敗戦が、日本人の平和を望む気持ちの根底にある。しかしながら、戦争も死刑も「他人を殺す」行為という点では同じ。戦争には反対だが、死刑には賛成という考え方は、必ずしも「他人を殺す」行為を否定しているわけではない。事実、死刑を廃止している国でも戦争行為を行っている国はある。
死刑制度のあり方については、内閣府の世論調査だけではなく、国民的な議論を行うべきではないだろうか。
今回の国連の勧告に法的拘束力はないが、日本政府は6月の国連理事会までに勧告を受け入れるかの判断を示す必要がある。