2005年から日本のモバイル利用の状況を継続的に調査してきた、NTTドコモの社会科学系の研究所であるモバイル社会研究所。その10冊目が本書「データで読み解くモバイル利用トレンド 2022-2023―モバイル社会白書―」(NTT出版)である。
利用動向だけでなく、子どもやシニアの利用実態や防災・減災、コロナ禍以降のニューノーマル時代の生活など、幅広い内容に関する豊富なデータを掲載している。マーケティングの関係者に役立ちそうなデータが詰まっている。
「データで読み解く モバイル利用トレンド2022-2023―モバイル社会白書―」(NTTドコモ モバイル社会研究所編)NTT出版
SNSの利用状況...「LINE」8割弱、「Twitter」4割、「Instagram」3割強、「Facebook」2割強
最初に、携帯電話の所有・利用状況について、まとめている。スマートフォン比率(2台目まで含む)は年々増加し、2010年には4.4%だったが、2022年には 94.0%となった。
シニアのスマートフォン所有状況では、いまや60代で9割を超え、70代でも7割となった。若い世代だけではなく、シニアにもスマートフォンが浸透したことが分かる。
最もよく利用する携帯電話(1台目)はAppleが最も高い。2016年の23.1%から、2022年は43.6%と、20.5ポイント増加している。
スマートフォンの利用行動を見ると、利用時間は女性若年層で高い。20代以下の女性では、「平日にプライベートで毎日4時間以上」が5割超、「休日に毎日4時間以上」が6割を超えている。
スマートフォンで行っている行動は「情報検索」が最も多く、次いで「家族・友人・知人とのコミュニケーション」「暇つぶし」が続いている。
音声通話の利用率は「LINE」が増加傾向にあり、2022年には69.0%に達するのが注目される。なかでも、「同居の家族」「近隣の人々」との連絡手段は、「直接会って伝える」と答えた人が最多の5割前後。だが、「別居の家族・親族」との連絡手段は、「LINEでのメッセージ」や「スマホ・ケータイでの通話」が多く、「友人」との連絡手段にいたっては「LINEでのメッセージ」が最も多い。
ソーシャルメディアの利用状況には、年代別の傾向が見てとれる。
全体では「LINE」は8割弱、「Twitter」は4割、「Instagram」は3割強、「Facebook」は2割強の人が利用している。「LINE」は10~70代と幅広い年代が利用。10~50代においては、LINE、Twitter、Instagramの順に利用率が高いが、10代ではTikTokより利用率が低くなる。
LINEは50代以下の男性と60代以下の女性の過半数が毎日利用。Twitterは10~20代の過半数毎日利用。Instagramは10~20代女性の6割以上が毎日利用している。
コンテンツやアプリケーションの利用率(複数回答)は、「電子メール」が8割弱、次いで「情報検索」「地図・ナビゲーション」も6~7割が利用。「SNS発信・更新」と「動画・音楽視聴」が5割前後。「テレビ・ネット通販」、「災害情報」「アプリ・Webゲーム」「電子書籍」「株・信託などの投資」と続いている。
無料動画サービスは「YouTube」の一強
直近の1カ月にネットショッピングで購入した品物は、携帯電話・タブレットでは「洋服類」、パソコンでは「健康食品、一般食品」が最も多い。
動画の利用状況では、利用している無料動画サービスは「YouTube」の一強が継続している。有料動画サービスでは「Amazonプライム・ビデオ」の利用率が比較的高く、「Netflix」が次点で続く。
コロナ禍で増えた在宅勤務・テレワークについての項目もある。テレワークへの要望として「光熱費・通信費の負担」が約4割、「業務に必要な機器・備品などの負担」「テレワーク手当の支払い」が約3割となっている。
テレワークの懸念として、「光熱費が高くなる」が約半数、「同居家族への配慮が難しい」「周囲の雑音が邪魔」が約3割となっている。
「生活家電」「医療」「グルメ・旅行」でAIへの期待
ICTにおける新たなサービスの利用意向についても尋ねている。今後利用してみたいサービスとして「自動運転」「オンライン診療・見守りサービス」が約3割、「ドローン配送・地上配送ロボット」が約2割。
AIへの期待が大きいのは「生活家電」「医療」「グルメ・旅行」が半数で、AIへの不安が大きいのは「不動産・金融」「個人・ビジネスマッチング」「医療」がそれぞれ2割超だ。
GIGAスクール構想により、子どものICT利用も拡大している。学校から貸与されたタブレット・パソコンをあわせた家庭での利用は、2021 年に大幅に上昇し、全学年で50%を超えている。
データの羅列と分析だけではない。メタバース、カーボンニュートラル、スマホ決済、コロナ禍でのメディア利用など、現在を切り取る6本の長いコラムも掲載され、これが興味深い。
たとえば、同研究所の佐藤仁氏が「ニューノーマル時代の動画視聴」と題したコラム。コロナ禍以降に増えたこととして、シニアは「テレビ」、若者は「YouTube」と分析している。そして、マスメディアからパーソナル化が進んでいると見ている。
データは同研究所のウェブサイト上で無償公開している。(渡辺淳悦)
「データで読み解く モバイル利用トレンド2022-2023」
NTTドコモ モバイル社会研究所編
NTT出版
1320円(税込)