セールスパーソンが誤りがちな「説明」の仕方とは? 間違った「プレゼン資料」も作っていませんか?(大関暁夫)

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   ここまでの一連のシリーズでは、営業はいきなり売らないこと、5つのステップを順序通りに踏んでから売ることで成約の確率が高くなること、すなわち「予備調査⇒カットイン⇒ヒアリング」の手順を経てセールスに至るのがよいとお話をしてきました。

   今回からはいよいよ、ヒアリングまでのステップを踏んだうえで迎えるセールス(プレゼンテーション)の進め方について取り上げます。

「この資料は誰のために作ったのですか?」

   セールスではまず入口で、誤りがちなことがあります。

   それは、セールスの目的がこちらからの説明を理解させることにはない、ということです。それよりも大事なのは、説明そのものに強い関心を持ってもらうことにあります。

   この違いを理解していないと、押し売り的なセールスになってしまうという過ちを犯すことになります。分かりやすく言うと、コマーシャルで商品声明はくどくどしない、ということと同じです。関心を持ってもらわないことには、成約には至らないからです。

   となると、セールス資料の作り方にも、それに従った注意が必要です。

   いろいろな企業をお手伝いする中で、営業の人たちがプレゼン資料を作成しているのを目にすることがありますが、よく見られるのが説明資料作成に終始しているケースです。

   つまり、会議資料と同じように、起承転結に沿ってポイントを箇条書きにしたような資料を作って、「プレゼン資料できました」と満足顔でいる営業担当者は意外に多いのです。

   そんな資料を見かけた折には、私は質問をしてみることにしています。

   「この資料は誰のために作ったのですか?」と。

   すると、たいてい担当者は、「お客様のためです」と答えます。「本当ですか?よく考えてみて」と何回か繰り返し尋ねてみると、半分ぐらいの人は気が付くのです。

   「自分が説明しやすいように、自分のために資料を作っていたかもしれません」と。

   そうなのです。プレゼンテーションであるにもかかわらず、知らず知らずに自分が説明しやすい、「自分のための資料」を作ってしまっていることが間々あるのです。

「相手が関心を持ちやすい」資料...2つの工夫とは?

   では、具体的にどうするのがよいのか――。

   当然、「自分が説明しやすい」ではなく、「相手が関心を持ちやすい」資料こそがセールス・プレゼンテーションのよい資料なのです。となると、やるべきことはふたつあります。

   1つ目は、相手に印象付けるビジュアル的な工夫。2つ目は、プレゼンテーションのストーリー展開、すなわちシナリオ面での工夫です。

   ビジュアル的な工夫は、文字数を少なくして絵や写真を目立たせること、資料を見ただけではそのシートで何の説明をするのか分からないような資料がよいのです。

   絵、写真のほかにも、グラフとか、あるいは数字を大きく見せて「これは何を表した数字か分かりますか?」、みたいな振りをするのもいいでしょう。プレゼンテーション内容のポイントとなるような単語や決め台詞を大きくシートに書いて、「一体何だろう?」と思わせるのもありです。

   プレゼンテーションの天才と言われたアップルコンピュータの故スティーブ・ジョブズCEOは絵で見せたり、数字で見せたり、単語や決め台詞で見せたり、常に聞き手を引き込むプレゼンシートの使い方が魅力的でした。

   もちろん天才の真似をしなさいと言うつもりはありませんが、ジョブズのプレゼンテーションはYouTubeなどで複数和訳付きで見ることができますので、プレゼンシートづくりのヒント探しに見てみるのもいいと思います。

懐かしの紙芝居にヒントあり! プレゼンは「印象的であるべき」

   インパクトがありつつ、一見しただけではこれから話す内容がわからないものがよいプレゼンシートだという点からは、懐かしい紙芝居と共通点があると言えます。若い人たちは紙芝居など全く知らないかもしれませんが、その昔は学校帰りの時間帯に通学途上の公園に毎日紙芝居屋のおじさんが来て、続き物の物語を独特の語り口調で見せていいました。

   たとえば、紙芝居の名作ヒーロー物「黄金バット」では、「今日は黄金バット大ピンチの場面からだよ」との言葉と共に、崖から落ちかけている黄金バットの絵が登場します。子供たちはその絵を見て、今日はどのような話が聞けるのだろうか、とワクワクしながら集まります。

   「前で見たい人は御菓子を買ってね」とのおじさんの呼びかけに、迫力ある絵とおじさんの語り口調を間近で感じたい子供たちが続々お菓子を買う――そんなビジネスモデルでした。

   子供たちの関心は、「どうして黄金バットはピンチに陥ってしまったのか」「黄金バットはどうやってこのピンチを切り抜けるのだろうか」という点にあって、1枚目の絵を見せられた段階でそのストーリーを詳しく聞きたいと、がっちりと好奇心を掴まれているのです。

   これこそ上手なプレゼンテーションの手本です。

   ジョブズがiPhone発表の冒頭で、「今日、アップルが電話を再発明します」との言葉と共にiPod、電話、通信機器が一体化するイメージ絵を見せ、集まった聴衆の好奇心を鷲づかみにしたのは、あの紙芝居と同様でした。

   絵で見せるか、数字で見せるか、あるいは単語やコピーワークで見せるか...。それはセールスする製品や商品の一番の訴求ポイントを印象付けるのに、どの見せ方が一番効果的かを勘案して決めることになります。

   繰り返しますが、セールス・プレゼンテーションは、あくまで説明的でなく、印象的であるべきなのです。そして箇条書き等の説明資料は、印象的なプレゼンテーションが終わった後に配布するのが最も効果的なのです。

   次回はプレゼンテーションにおける2つ目の工夫について、上手なシナリオ化のポイントを説明したいと思います。(大関暁夫)

大関 暁夫(おおぜき・あけお)
株式会社スタジオ02 代表取締役 企業アナリスト
東北大学経済学部(企業戦略論専攻)卒。1984年、横浜銀行に入行。現場業務および現場指導のほか、出向による新聞記者経験を含めプレス、マーケティング畑を歴任。全国銀行協会出向時には対大蔵省(当時)、対自民党のフロントマンも務めた。中央林間支店長に従事した後、2006年に独立。銀行で培った都市銀行に打ち勝つ独自の営業理論を軸に、主に地域金融機関、上場企業、ベンチャー企業のマネジメント支援および現場指導を実践している。
メディアで数多くの執筆を担当。現在、J-CAST 会社ウォッチ、ITメディア、BLOGOS、AllAboutで、マネジメント記事を連載中。
1959年生まれ。
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