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「フー・イズ・ウエダ?」世界中が思わず「グーグル検索」した日銀次期総裁 世界レベルの「コミュ力」「信頼度」...海外メディアは高評価!(井津川倫子)

   2023年4月に任期満了となる日銀・黒田東彦総裁の後任に、経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏が起用される見込みとなりました。

   「アベノミクス」のもと異次元の緩和策を続けた黒田氏の後、誰が「火中の栗」を拾うのか。「ダークホースですら名前が挙がっていなかった」(ロイター通信)と誰もが驚いたサプライズぶりは、米ブルームバーグ通信が「世界中の投資家がいっせいにグーグルで『Ueda』を検索した」と伝えたほどでした。

   植田氏の業績や人となりに注目が集まるなか、海外メディアでは好意的な評価が目立ちます。重責を担うことになる植田氏は、日本経済の救世主となるのでしょうか。

  • 植田和男氏、どんな人? 世界が「グーグル検索」と話題に
    植田和男氏、どんな人? 世界が「グーグル検索」と話題に
  • 植田和男氏、どんな人? 世界が「グーグル検索」と話題に

世界中が「Google」検索した「Ueda」 絶版本が価格18倍の「超お宝グッズ」に

   それにしても、日銀総裁の指名にこれほど注目が集まったことがあったでしょうか?

   どちらかと言えば、自分たちとはかけ離れた存在で、日々の生活と結びつけて意識することはなかった気がします。

   ところが、昨年来の急激な円安や歴史的な物価高で、「異次元の緩和策の行方」に関心が高まるばかり。出口戦略がささやかれるなか、下馬評にも名前が挙がっていなかった植田和男氏の登場に、国境を越えてサプライズが広がりました。

'Dark horse' Kazuo Ueda upsets expectations for next Bank of Japan governor
(「ダークホース」の植田和男氏が、次の日銀総裁予測を混乱させた:英フィナンシャル・タイムズ紙)
Bank of Japan governor:日銀総裁

The surprise choice left many investors Googling Ueda's name
(サプライズ人事で、多くの投資家が『Ueda』の名前をグーグル検索した:米ブルームバーグ通信)
Googling:グーグル検索をする

   世界経済を牛耳るフィナンシャル・タイムズ(FT)でさえ、「Dark horse」(ダークホース)と評した植田氏の登用。日本国内はもちろん、海外でも相当な「サプライズ」だったようです。ブルームバーグが伝えているように、投資家がいっせいに「グーグル検索」したというのも頷けます。

   ブルームバークはさらに、「out-of-print」(絶版)になった植田氏著書の価格が跳ね上がり、中古書市場で「more than 18 times from its face value of 1,870 yen」(定価1870円の18倍以上になっている)と、その異常ぶりを伝えています。

   日銀の政策次第で株価や金利が大きく動くことが予想されることから、市場関係者が情報収集に必死になるのも理解できます。実際、指名の発表後に為替が円高に揺れる動きがありましたが、植田氏に関する情報が広がるにつれて、当初のサプライズ現象は落ち着いてきた様子です。

   これまでのところ、海外メディアの「植田評」は概して高評価です。

   サマーズ元米財務長官が「植田氏は日本のベン・バーナンキ(元米FRB議長)だ」と評したように、世界の中央銀行総裁たちと同時期に米マサチューセッツ工科大学(MIT)で学んだ、という「同窓の強み」が、強烈なインパクトを与えているようです。

   フィナンシャル・タイムズ紙は、学者が日銀総裁に選ばれるのは「戦後初」だと強調しつつ、「A sound choice for the Bank of Japan's next governor」(日銀次期総裁として正しい選択だ)と太鼓判を押していました。

欧州中央銀行・前総裁ドラギ氏との共通点とは? 果たして「Uedaマジック」は出るか?

   植田氏の評判で共通しているのは、コミュニケーション能力の高さ。国内外の専門家がこぞって、難しい問題を誰にでもわかるように説明できる人、と絶賛しているのです。

   ある専門家は、「日本の経済について、海外の関係者が真っ先に教えを乞うのが植田氏だ」と、国際社会での信頼度の高さを伝えています。海外の超エリートたちと英語で対等に渡り合えると評される「コミュ力」に興味がわく一方、今回の起用で思い出すのが、欧州中央銀行(ECB)前総裁のマリオ・ドラギ氏です。

   ドラギ氏と植田氏は、著名経済学者スタンレー・フィッシャー氏の教え子という共通点があります。くしくも、2010年代前半の欧州危機時に総裁を務めたドラギ氏と、「異次元の緩和策」の出口戦略を担うとされる植田氏の立場が重なります。

   ドラギ氏といえば、2012年7月にロンドンで開催された講演会で発した、次のことばが有名です。

The ECB is ready to do whatever it takes to preserve the euro
(ECBは、ユーロを守るためなら何でもやる用意がある)
be ready to do whatever:何でもやる用意がある

   かくゆう私も当時、BBCのポッドキャストでこの発言を聞いて、思わず背筋がぞくっとしたことを覚えています。当時、欧州債務危機は最悪の状態で、ギリシャのユーロ脱退やユーロ圏の崩壊危機が現実味を帯びていたほどでした。そんな火中に、総裁が「何でもやる」と堂々と宣言したことに、驚きと感動を覚えたものです。

   このドラギ氏の「何でもやる宣言」が市場に安心感を与えたのでしょうか。その後ムードが一変して、今では「ドラギマジック」とも呼ばれています。

   はてさて、「異次元の緩和策」を続けた黒田総裁の後釜として、火中の栗を拾うとされている植田氏は、同窓のドラギ氏のように「Uedaマジック」を発揮するのでしょうか。市場関係者だけでなく、日本国民一人ひとりがかたずを飲んで見守っていることでしょう。

   それでは、今週のニュースな英語は、ドラギ氏の発言から「do whatever」(何でもやる)を取り上げます。

You can do whatever you want to do
(やりたいことをやればいいよ)

I will do whatever to make you happy
(あなたを幸せにできるなら何でもするよ)

I will do whatever you want
(君が望むことは何でもする)

   私は経済の素人で、投資もしていません。それでも中央銀行の総裁として、市場や世間と円滑にコミュニケーションできる能力が重要だと思います。難しいことを誰にでもわかりやすく説明して、行動する力。「コミュ力」抜群の「Uedaマジック」に期待しています。(井津川倫子)