「売る」から「うるおす」へ発想の転換
3つ目の「きになる黄」は、現状に困っている人に、一歩踏み出してもらう最後の一押しをすることだ。行動、時間、対象を限定すると、強い言葉が生まれる。何を限定することが自社の商品にとって一番効くかを考えるといい。
これについて、著者がこれまでに関わった豊富な事例をもとに解説している。
たとえば、「絆の大切さ」を伝えるという課題に対して、堤さんは、「絆が感じられない」という「不」の状態とはどのような時かと考えた。
「不安」=「ひとりぼっちな気がして、さみしい時」。ちょうど生まれたばかりの子どもの出産を思い浮かべ、絆を実感できるあるモノに気が付き、最終的に以下の言葉が生まれたという。
「さみしくなったら、おヘソを見よう。
あなたがひとりじゃなかったこと。思い出したら、きっと大丈夫。
実感しよう、絆」
このコピーは、日本新聞協会新聞広告クリエーティブコンテスト(2009年度)で最優秀賞を受賞した。
本書がユニークなのは、売れない時代に必要なマインドとして、「うるおす」ということを強調していることだ。どうやって人に「売る」か、ではなく、どうやって人を「うるおす」か、に考え方を変えることが大前提になる、と強調している。
それを痛感したのは、コロナ禍で「消費」よりも「安全」が大事とされ、広告の仕事が悪者のように捉えられたからだという。
目の前の困っている人に対して自分が好きなこと、得意なことで、隙間を埋めてあげること。そこから感謝の好循環が生まれ、経済が回っていく、という。無理やり「売る」のではなく、社会を「うるおす」視座を持とうという提言に共感を覚えた。(渡辺淳悦)
「ほしいを引き出す言葉の信号機の法則」
堤藤成著
ぱる出版
1540円(税込)