待ったなしの「脱炭素経営」...対応しなければ、ビジネスができなくなる? そして、「脱炭素」時代の成長戦略とは?/野村総合研究所・小野尚さんに聞く

提供:RX Japan

欧州の動向がビジネスを左右 付加価値型の製品開発も今後のカギ

――「NRI-CTS」の特長について教えてください。

小野さん「『NRI-CTS』は設計思想として、世界中の会社と排出情報のやりとりができる仕組みを構築したいというビジョンを描いています」

――GHG排出情報のやりとりをする...どういうことでしょうか?

小野さん「順を追って説明すると、『カーボンフットプリント』という考え方があります。これは、ひとつの製品やサービスに対して、原材料の調達から生産、流通、そして廃棄やリサイクルに至るまで――製品のライフサイクル全体を通して排出されるGHGの排出量を(CO2に換算して)数値化して表すものです」
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小野さん「このカーボンフットプリントについて、今、日本企業のなかでは自動車や機械メーカーなどがとくに気にかけています。
背景には、欧州で2024年7月から順次適用が始まる『欧州バッテリー規制』があります。電気自動車などに欠かせないバッテリーの、ライフサイクル全体の排出量――カーボンフットプリントの申告などが義務付けられるのです。
さらに、欧州はこの先、環境規制の緩い国からの輸入品に関税を課す『国境炭素税』の導入にも動き出しています。グローバルでビジネスを進めるうえでも、これまで以上に、排出量の正確な把握は欠かせなくなりそうです」
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――この時、それぞれの部品の供給元であるサプライヤー由来の排出量まで、すべてさかのぼってデータを収集し、開示していく必要があるのですね。

小野さん「ええ。とくにバッテリーや自動車の製造工程では、関わるサプライヤーも多く、何十階層にもわたるなど、すべてをたどるのがとにかく大変です。こうした課題を解決するのが『NRI-CTS』。しかも、GHG排出量の見える化・算定システムはすでにいくつかありますが、『NRI-CTS』のユーザーは、サプライヤーが他社製のシステムを使っていても、データの受け渡しがスムーズにできるのが最大の特長です」

――こうした仕組みを通じて、世界中の会社との排出情報のやりとりを実現するわけですね。一方で、企業の「収益の拡大」ではどのような取り組み方が考えられますか。

小野さん「CSR(企業の社会的責任)的な社会貢献としてのカーボンニュートラル推進ではなくて、企業の収益も上がっていくような、価値を持つ製品やサービスの提供については今後、考えなくてはならないポイントだと思います。
たとえば、カーボンニュートラルをうたった、付加価値型の製品を展開していくやり方があると思います。これは今、アパレル、食品・飲料などの分野では少しずつ広がりを見せています。通常に比べて割高な設定でも、生活者の理解を得るかたちで提供していくのです。こうした動きが他の業種にも波及していくと、社会全体に脱炭素がもっと浸透していくと思います」
「脱炭素経営EXPO」の様子。リアルな展示会だから、商談が進みやすいのもメリット
「脱炭素経営EXPO」の様子。リアルな展示会だから、商談が進みやすいのもメリット

――最後に、企業が脱炭素を推進するうえでのポイントを教えてください。

小野さん「つらい思いを強いられやすいコスト削減のような意識で取り組んでも、どこか社員のみなさんは前向きになれません。そういう意味でも、繰り返しになりますが、企業はカーボンニュートラルに取り組みながらも、新たな価値を生み出し、利益を上げていくことが大切です。
事業を推し進めるには、トップのリーダーシップはもちろん、これからは現場をリードする人の役割も重要。全社的な取り組みとして、一体化していく必要があるでしょう。いうまでもなく現場には、ビジネスのヒントがたくさん隠されているのですから」

――ありがとうございました。

   企業の「脱炭素経営」のヒントとなるソリューションが一堂に会する、国内最大規模の脱炭素経営に特化した専門展「脱炭素経営EXPO」。2023年「脱炭素経営EXPO 春展」(3月15日~17日/東京ビックサイト)では、脱炭素の潮流や先進事例などを取り上げるセミナーが充実。「基調講演」には小野さんも登壇予定だ。

【プロフィール】
小野 尚(おの・ひさし)

野村総合研究所 コンサルティング事業本部 パートナー
https://www.nri.com/

1990年、NRI入社。NRIソウル支店長、グローバル事業コンサルティング部長、グローバル事業企画室長などを経て現職。専門分野は、クロスボーダーの事業開発、ビジネスモデル変革、新規事業開発。実施プロジェクトは、日本企業と外国企業とのM&A・アライアンス、事業評価に基づくポートフォリオ改革、海外市場展開など成長戦略の実行支援。米コーネル大学MPA。

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