「タカ派やハト派に偏らない、バランスのとれた陣容」
今回の人選、エコノミストはどう見ているのだろうか。
「チーム植田」はバランスが取れた陣容で、「岸田首相の独自色が出ている」と評価するのは、三井住友DSアセットマネジメントのチーフマーケットストラテジスト市川雅浩氏だ。
市川氏はリポート「日銀総裁に植田氏起用へ~注目される政策運営と市場への影響(2月13日付)のなかで、植田氏を支える新副総裁の2人に注目した。
氷見野良三氏は旧大蔵省出身で、スイスに本部を持つバーゼル銀行監督委員会(BCBS)の事務局長を務めるなど、国際金融行政に精通している。BCBSとは、金融機関を対象とした国際的なルールを定めるためにG10(主要10か国)の中央銀行総裁会議が創設した国際機関だ。
ほかにも、国際金融システムの維持を図る金融安定理事会(FSB、本部スイス)の要職も努め、海外との豊富な人脈をもっている。
一方、内田氏は日本銀行生え抜きで、金融政策を企画・立案する企画畑を長く歩んできた。マイナス金利やイールドカーブ・コントロール(YCC)を導入する際の実務を取り仕切った人物で、黒田体制下での異次元緩和の政策運営に精通しているという。
この2人を、学者で理論家肌の植田和男氏の参謀に配した「トロイカ体制」が絶妙だと、市川氏は指摘するのだ。
「植田氏は1998年4月から2005年4月までの7年間、速水優元総裁や福井俊彦元総裁のもとで審議委員を務めました。学者かつ黒田東彦総裁の在任期間以前の元審議委員という人選は、岸田文雄首相の独自色がうかがえます。
政府は、この先、金融緩和を継続するにせよ、一部の緩和策の歪みや不具合を正すにせよ、植田氏の学術理論に基づいて内田氏が具体的な政策を立案し、氷見野氏が金融機関や金融システムへの影響を分析するという体制の構築を、念頭に置いたのではないかと推測されます」
そして、こう付け加える
「経験豊富なスペシャリスト3名を起用したことで、政策運営は緩和継続も、緩和修正も、さらには将来的な引き締めも、柔軟な対応が可能となり、タカ派やハト派に偏らない、バランスのとれた陣容という印象です。
また、黒田体制の政策参謀とされる内田氏を起用したことで、岸田首相は自民党最大派閥である安倍派の意向を踏まえるなど、政治的な配慮も怠らなかったと判断されます」
金融大幅緩和が柱のアベノミクスの継続を主張する安倍派への布石を打った一石二鳥、いや一石三鳥の人事だというわけだ。