脱炭素社会に向け、加速する企業間の連携...どんな行為が独禁法にあたるか? 公取委で指針づくり進む

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   2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「脱炭素社会」に向けた企業間の連携について、どのような行為が独占禁止法違反に当たる恐れがあるかを示す指針を、公正取引委員会が定めることになった。

   温暖化対策に限らず、さまざまなテーマについて複数の企業が力を合わせて取り組んだり、取引先に対応を求めたりするのは日常的にあることだが、やり方によっては、競争を妨げたり、取引の公正を害する恐れがあるという。

   果たして、どのようなことなら問題がなくて、なにをしたら法律に抵触するのか――。

  • 公正取引委員会
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問題点は2つ...カルテルに該当しないか、「優越的地位の乱用」にならないか

   公取委が2023年1月12日に指針案を公表した。二酸化炭素(CO2)排出企業や独禁法の専門家、大学教授らで構成する検討会を設置し、年内に指針をまとめる方針だ。

   脱炭素に向けては、新技術の研究開発や原材料の調達などで連携が増えると見込まれる。その一方で、競争を制限する可能性があるため、あらかじめ独禁法に抵触する場合としない場合の線引きを明確にする狙いだ。

   今回公表した指針案は、脱炭素に向けた企業間の取り組みが「基本的に独禁法上問題とならない場合が多い」と明記。独禁法の適用基準を緩和するわけではなく、脱炭素と公正な競争の両立を促すことが目的だとしたうえで、議論になりそうな75の事例を示した。

   大きく分けて、問題は2つに分けられる。

   一つは、大手企業を中心とした企業間の連携がカルテルに該当しないかだ。もう一つは、大手企業が下請けなどに脱炭素を求める過程で「優越的地位の乱用」にならないかだ。「横の関係」と「縦の関係」と考えればいいだろう。

複数の企業間で「示し合わせる」行為は、違反の可能性

   まず、「横の関係」は、脱炭素の実現に大手企業間の連携が重要になる。

   これについて、たとえば複数の大手電力会社が、CO2が出ない水素・アンモニアなど脱炭素燃料を共同調達する例を挙げ、燃料代全体に占める割合が小さい段階など一定の条件下であれば問題ない、との見方を示した。

   脱炭素に貢献する製品・技術に使う希少な原材料は調達が不安定なことや、割合が小さいうちは新規参入や自由な価格決定を阻害する恐れは少ないことを考慮したとみられる。

   競合企業による共同の研究開発も、技術革新につながるなど多くは競争を促進することから問題となる可能性は低い、と指摘した。

   ただ、複数の企業が共同研究でCO2排出削減の新技術を開発した場合、示し合わせたうえでその技術を使った商品の価格を上げればカルテルに当たる可能性がある。さらに、より高度な技術を開発できるのに、コスト増を懸念して、カルテルを結んで開発を控えるのは、当然、違反の可能性が高い。

   これは、たとえば2021年、ドイツの大手自動車メーカー5社が、排ガス浄化性能のより優れた自動車を開発できたのに談合して開発を控えたとして、欧州委員会からカルテル認定されたケースもある。

   CO2排出が多い古い生産設備を競合企業同士で協調して、いっせいに廃止する行為については、独禁法で問題になる恐れがあるとした。示し合わせることなく、独自の判断で廃止することは問題ない。

   この背景として、電力会社が石炭火力発電所をいっせいに廃止することなどが念頭にあり、廃止が遅れたり、価格競争を控えたりする副作用を防ぐ狙いがある。

   こうした設備の共同廃棄は、1960~70年代の日米繊維摩擦などもあって、繊維産業が「構造不況業種」となるなかで実施されたが、独禁法違反を避けるために特別法(臨時措置法)を作って行われた。

サプライチェーン全体で取り組む脱炭素だが、親企業優位の力関係変わらず

   問題の二つ目は、大企業(親企業)と中小企業(下請け)の「縦の関係」――つまり「優越的地位の乱用」については、脱炭素を進めるうえで、大きな課題になる。これには、2つの側面がある。

   まず、親企業が部品などを納入する下請けに、省エネ効率のいい部品を作るよう求める場合だ。開発コストを価格に適正に反映する必要があり、文字通り、優越的な立場を背に、納入価格にコストの転嫁を認めない場合は、独禁法に抵触する恐れがある。

   もう一つは、下請け企業の生産過程のCO2削減要請だ。いまや、事業者は自分の排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した「サプライチェーン排出量」の削減が求められている。ようするに、原材料調達から製造・物流・販売・廃棄まで一連の流れ全体で発生するCO2を減らさなければならない。

   たとえば自動車部品を組み立てる完成車メーカーは、自社の組み立て工場で使う電気だけでなく、下請けの部品メーカーが使う電気や加熱のためのガスなど分も含め、全体のCO2排出削減が必要になる。そこで、親企業は下請けにもCO2削減を求めるが、そのためのコストを価格に適正に反映する必要がある。

   ただ、この「優越的地位」は現実にはあいまいな領域で、親企業が下請けに対して圧倒的に優位という力関係が変わらないなか、中小企業問題の永遠のテーマでもある。

   かつては、親企業が下請けに、従来より引き下げた納品価格の一覧表を渡して強制するようなことが横行していた。だが、当局の監視の目が厳しくなると、実質的には内々に価格を指示しておいて、形の上では下請け側から新しい価格を提案させるやり方になっているといった話が絶えない。

   さらに、「CO2削減にむけては、親企業から下請けに、製造工程全般に関する細かい調査(アンケート)の報告などの作業も膨大になっている」(中小企業関係者)ともいう。

   公取委の指針が、新製品開発など目に見えるコストには適用されても、そうした調査など「目に見えにくいコスト」を含めてカバーするのか、関係者は今後の議論を注視している。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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