「入居前からの壁の古キズ修繕費まで請求!」引っ越し時の賃貸住宅「原状回復」トラブル...対策の決め手は「住み始めた時からの備え」にアリ!

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   2月から引っ越しシーズンが始まったが、例年、賃貸住宅から退去する際、「高額な原状回復費用を請求された」「入居前からあったキズなのに修繕費用を支払わされた」といったトラブルの相談が絶えない。

   そこで、国民生活センターは2023年2月1日、「住み始める時から、『いつか出ていく時』に備えておこう! 賃貸住宅の『原状回復』トラブルにご注意」という警鐘を鳴らす報告を発表した。

   住宅の賃貸借契約のことをよく知り、住み始める時から出ていく日に備えれば、トラブルに巻き込まれて余計な費用を支払わなくてもすむ。その方法はこれだ。

  • 賃貸マンションに多い退去時のトラブルとは(写真はイメージ)
    賃貸マンションに多い退去時のトラブルとは(写真はイメージ)
  • 賃貸マンションに多い退去時のトラブルとは(写真はイメージ)

喫煙者だけのエアコン修理代、吸ってもいないのに請求された

   国民生活センターによると、賃貸住宅の原状回復に関する相談件数は毎年1万3000~4000件程度あるが、月別に見ると、引っ越しシーズンがスタートする2月から増え始めて3、4月にピークを迎えるのが特徴だ。

   相談者を年代別(2021年度)にみると、若い世代に多いのが特徴で、30歳代(29.%)が最も多く、20歳代から40歳代を合わせると全体の7割(73.0%)を超える【図表】。

(図表)年代別賃貸住宅「原状回復」トラブル相談件数、30~50代の働き盛りが多い(国民生活センターの作成)
(図表)年代別賃貸住宅「原状回復」トラブル相談件数、30~50代の働き盛りが多い(国民生活センターの作成)

   こんな事例が代表的だ。

【事例1】敷金礼金不要アパートの退去時、契約書と異なるエアコン清掃代や入居前からあったフローリングのキズの修繕費用まで請求された

   2年間居住した、1LDKで家賃5万円、敷金と礼金が0円の賃貸アパートを退去した。原状回復費用の請求書が届いたが、ハウスクリーニング代約5万円、鍵交換代約1万円、クロス修復代約1万円、フローリング修復代約2万円など合計10万円を超えていた。

   ハウスクリーニング代については、契約書に特約として記載があるので支払うつもりだが、施工業者に確認したら相場はもっと安いと言われた。また、クリーニング代にはエアコンの清掃代が含まれているが、契約書にはエアコン清掃代は「室内に喫煙の形跡が残っている場合のみ」と記載されており、自分は喫煙していない。また、フローリングについては、入居時に複数のキズがあった。請求に納得できない。(2022年4月・30歳代男性)

【事例2】アパート退去時、自分では「通常損耗」だと思う箇所の修繕費用や、契約書に記載のないハウスクリーニング費用まで請求された

   25年間入居していたアパートを退去した。家賃は約7万円で、敷金22万円を払っている。管理会社と立会い後、書面を交わして退去したが、その後、「床の張替え、建具の塗り替え、畳表替え、クロス塗装、ハウスクリーニング等の費用約19万円を敷金から差し引いて返金する」との書面が届いた。

   居住年数が長いのでそれなりに汚れはあったが、破損させた箇所はないし、立会 いの時にも特に指摘されなかったので、通常損耗だと思う。賃貸借契約書には畳の表替えに関する記載はあるが、ハウスクリーニング費用に関する記載はない。納得できないがどうしたらよいか。(2022年11月・40歳代男性)

20年前からあったキズ、「最近付いた」と修繕費を請求

マンションを退去した際のトラブルとは(写真はイメージ)
マンションを退去した際のトラブルとは(写真はイメージ)

【事例3】20年以上住んだマンションを退去した際、入居時から付いていたキズについて「最近付いたものだ」と修繕費用を請求された

   60代の叔母が、20年以上住んだ3LDKの賃貸マンションを退去した。退去時の立会いで、管理業者と清掃業者から、壁や襖などのキズについて指摘され、叔母が「入居前から付いていた」と言ったが、業者が「最近付いたキズだ」と強い口調で言うので怖くなり反論できなかった。

   入居時に付いていたことを証明できる写真などはない。叔母は一人暮らしで、こまめに掃除をしていた。敷金は17万円だったが、原状回復費用との差額を請求すると言われた。入居前から付いていたキズの修繕費用を負担する必要があるか。(2022年2月・相談者30歳女性、契約当事者60歳代女性)

【事例4】敷金礼金不要のアパートを退去した際、入居時から不具合があったシャワーヘッドの交換費用を請求された

   築3年で家賃約6万円、敷金・礼金0円の賃貸アパートを退去した。原状回復費用の請求書が不動産管理業者の委託業者から届いた。ルームクリーニング代約4万円、壁クロス補修費用約1万円、床補修費用約1万円、シャワーヘッド交換費用約1万円、合計約7万円を請求された。シャワーヘッドについては「つなぎ目から水漏れしている」と言われた。

   不動産管理業者には申し出ていなかったが、シャワーヘッドは入居当初から水漏れしていたので、それを伝えると、「証拠がない」と言われた。ルームクリーニング代は契約書に記載があるのでしかたがないと思っているが、その他の費用を支払わなければならないか。(2022年1月・20歳代男性)

普通に使って生じた損耗は、原状回復を行う義務はない

設置されているエアコンが故障しても勝手に直さず、貸主に相談を(写真はイメージ)
設置されているエアコンが故障しても勝手に直さず、貸主に相談を(写真はイメージ)

   ここでまず、「原状回復」でトラブルになりやすいポイントを押さえておこう。

   (1)賃貸借契約の「原状回復」とは、借主の故意・過失によって賃貸住宅に生じたキズや汚れ(損傷)など、または借主が通常の使用方法とはいえないような使い方をしたことで生じた損傷等を元に戻すことをいう(改正民法第621条)。

   だから、賃貸借契約終了時、借主は、原状回復を行う義務を負うが、借主の責任によるものではない損傷や、普通に使っていて生じた損耗(通常損耗)、年月の経過による損耗・毀損(経年変化)については、原状回復を行う義務はない。

   (2)「敷金」は、借主の賃料滞納や原状回復費用など、契約期間内に発生する借主から貸主に支払わなければならない費用に充てるために、前もって貸主に渡すお金のことだ。通常、原状回復にかかる費用は「敷金」から差し引かれる(改正民法第622条)。

   賃料滞納がなく、原状回復の必要もなければ、全額が借主に返還される。また、「敷金」と似たものに「礼金」があるが、礼金は貸主にお礼の意味で支払うものとされ、通常、返還されない。

   最近は、敷金・礼金がかからない、いわゆる「ゼロゼロ物件」が増えている。「ゼロゼロ物件」は、借主にとって高額になりがちな初期費用が抑えられるメリットがある反面、退去時にまとまった額の支払いが必要となるデメリットもある。

   (3)賃貸借契約は長期にわたることが多く、原状回復が問題となる退去時は、契約締結時から相当の時間が経過している。そのため、入居時の状況がわかる記録が残っていないと、問題となる損傷が「通常損耗」や「経年変化」にあたるかどうか、客観的な判断が難しくなる。

   トラブルの多くは、退去時に貸主側(大家や管理業者等)から提示された修繕の範囲や金額について、借主が納得できない時に起こる。

入居時に家の中の原状を写真に撮り、記録を残す

入居前に家の中の現状を記録しよう(写真はイメージ)
入居前に家の中の現状を記録しよう(写真はイメージ)

   そこで、国民生活センターではこうアドバイスしている。

   (1)賃貸借契約をする前に、貸主側からの説明をよく聞き、内容をよく理解した上で契約する。契約書類は、契約後に借主に不利な条件を見つけても、条件変更は難しい。

   そこで、国土交通省が示している賃貸借契約書のひな形「賃貸住宅標準契約書」や、貸主と借主のどちらが原状回復費用を負担すべきかの基準を示した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」と、契約書類を見比べて、違っている箇所はよく読んでおく。

   特に、禁止事項や修繕に関する事項、退去する際の費用負担に関する事項は丹念に読もう。

   たとえば、「ハウスクリーニング費用は全額借主負担」などとガイドラインの「賃貸人・賃借人の修繕分担票」とは異なる内容が特約で定められている場合があるので、要注意だ。ガイドラインでは、ハウスクリーニング費用は賃貸人の負担が原則なのだ。

   (2)入居する時には、住宅の現状をよく確認し、記録に残しておく。あちこちにキズや汚れがないか、エアコンなど備え付けの設備がきちんと動作するかなど、できる限り貸主側と一緒に写真を撮ったり、メモを取ったりしながら、住宅の隅々を点検しておく。

   貸主側がチェックシートを用意している場合は、項目をしっかり確認しながら記入し、大切に保管する。上記ガイドラインの中にもチェックシートのひな形が公開されているので活用しよう。

   (3)入居中にトラブルが起きたら、すぐに貸主側に相談する。エアコンや給湯器など設置されていた機器に不具合や故障が起こった場合や、雨漏りや水漏れなどは起きた場合は、すぐに貸主側に連絡、相談する。こうした修繕は、原則として貸主に義務がある。貸主側に無断で修繕を行うと、退去時の精算の際にトラブルになる可能性がある。

   また、窓際の結露を放置してカビを発生させると、退去時に清掃費用を請求される可能性があるため、貸主側に状況を報告した上で、適切に管理しよう。

   国民生活センターではこう結んでいる。

「賃貸住宅はあくまで借りているものであることを意識し、日頃からできるだけきれいに使うことを心がけましょう」

(福田和郎)

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