普通に使って生じた損耗は、原状回復を行う義務はない
ここでまず、「原状回復」でトラブルになりやすいポイントを押さえておこう。
(1)賃貸借契約の「原状回復」とは、借主の故意・過失によって賃貸住宅に生じたキズや汚れ(損傷)など、または借主が通常の使用方法とはいえないような使い方をしたことで生じた損傷等を元に戻すことをいう(改正民法第621条)。
だから、賃貸借契約終了時、借主は、原状回復を行う義務を負うが、借主の責任によるものではない損傷や、普通に使っていて生じた損耗(通常損耗)、年月の経過による損耗・毀損(経年変化)については、原状回復を行う義務はない。
(2)「敷金」は、借主の賃料滞納や原状回復費用など、契約期間内に発生する借主から貸主に支払わなければならない費用に充てるために、前もって貸主に渡すお金のことだ。通常、原状回復にかかる費用は「敷金」から差し引かれる(改正民法第622条)。
賃料滞納がなく、原状回復の必要もなければ、全額が借主に返還される。また、「敷金」と似たものに「礼金」があるが、礼金は貸主にお礼の意味で支払うものとされ、通常、返還されない。
最近は、敷金・礼金がかからない、いわゆる「ゼロゼロ物件」が増えている。「ゼロゼロ物件」は、借主にとって高額になりがちな初期費用が抑えられるメリットがある反面、退去時にまとまった額の支払いが必要となるデメリットもある。
(3)賃貸借契約は長期にわたることが多く、原状回復が問題となる退去時は、契約締結時から相当の時間が経過している。そのため、入居時の状況がわかる記録が残っていないと、問題となる損傷が「通常損耗」や「経年変化」にあたるかどうか、客観的な判断が難しくなる。
トラブルの多くは、退去時に貸主側(大家や管理業者等)から提示された修繕の範囲や金額について、借主が納得できない時に起こる。