「年収が夫の2倍になりそう。夫のプライドを傷つけずにすむ方法ってある?」
そんな悩みを訴える女性の投稿が炎上気味だ。女性は成果主義の企業で働く専門職。夫は年功序列型企業で働くサラリーマン。年収の差がどんどん開く一方だという。
「男はプライドの生き物。金額を言ってはダメ」という意見と、「自分に誇りを持って堂々と言おう」という意見で賛否がわかれる。
仕事ができる妻の前に「夫のプライドの壁」が立ちはだかり、問題をややこしくしている。専門家に聞いた。
根本的な解決をはかるには、どうしたら?
<「年収が夫の2倍に...彼のプライド傷つけそう」成果報酬でバリバリ稼ぐ女性の投稿が炎上気味、「隠すべきか」「伝えるべきか」で賛否...専門家に聞いた(1)>および<「年収が夫の2倍に...彼のプライド傷つけそう」成果報酬でバリバリ稼ぐ女性の投稿が炎上気味、「隠すべきか」「伝えるべきか」で賛否...専門家に聞いた(2)>の続きです。
――たとえば、夫のプライドをくすぐる解決策として、収入が上の妻が共同名義のクレジットカードを2枚作り(実質支払いは妻)、外食、買い物では常に夫がこのカードで支払い、面目を立たせる――こんな方法を提案した人もいます。年収が夫より高い女性は、いろいろと工夫をしていますね。
川上敬太郎さん「夫のプライドがどこにあるのかによってくると思います。支払時の体面の問題だけなのであれば、クレジットカードを夫に持ってもらうのは1つの解決策になるのかもしれません。
しかし、そもそも夫が年収額の高低を気にしているのであれば、残念ながら根本的な解決にはならないと思います」
――いやあ、困りましたね。ところで、投稿者はまだ20代です。これから子どもができる可能性があります。成果主義の会社で産休・育休をとったり、成果が出なくなったりしたら年収が夫より減るかもしれない。「しばらく放っておけばよい」という意見もけっこう多くありました。
川上敬太郎さん「たしかに、そのうち投稿者さんの年収がグッと下がってしまう可能性もあるかもしれません。投稿者さんが『黙っているのも後々バレたら問題になりそう』と言っている点は気になりますが、5年、10年のスパンで考えれば、放っておくことが一番無難という可能性もありえます。
しかし、いまは育児や育休取得が妻だけの役割という時代ではなくなりました。夫の考え方にもよりますが、子どもができたからといって必ずしも女性である投稿者さんが育児に時間を奪われたり、仕事で成果が出せなくなったりして年収が下がってしまうとは限らないようにも思います」
「年収が夫より高い妻の悩みは、ジェンダー論的におかしい」
――そもそも、年収が夫より高いからといって、妻が夫のプライドを傷つけるのではないかと悩み、論争が起こること自体がおかしい。夫婦逆のケースではあり得ない話だ。ジェンダーフリーの現在、こうした投稿を取りあげること自体、問題だという意見もありました。
川上敬太郎さん「おっしゃる通り、ジェンダー論的にはおかしいと思います。しかし、夫が年収額にプライドを持ってしまっているのだとしたら、あくまでご夫婦間の価値観の相違として捉える必要があるのではないでしょうか。
世の中こうあるべきだと、ジェンダーの観点を持ち出し、『べき論』を突きつけたとしても、ご夫婦だけに限られた話の中で、お互いの理解につながるかどうかは疑問です」
「お互いの年収額の比較ではなく、将来の家計を話し合おう」
――川上さんなら、ズバリ、投稿者にどうアドバイスをしますか。正直に金額を伝えますか。それとも隠しておきますか。また、投稿者の夫に対して、何かアドバイスはありますか。
川上敬太郎さん「夫が年収額にプライドを持っていて、かつ投稿者さんが本当の年収額を隠しているとバレた時に問題になるのであれば、正直に現状を伝えざるを得ないようにも思います。
ただ、伝える際にはお互いの年収額を比較し合う方向だけでは、視野が狭くなってしまうのではないでしょうか。そこで、成果報酬型だから今後ダウンするかもしれない不安があること、将来の家計を考えると稼げている間に貯めておきたいなど...いま、投稿者さんの収入が増えていることがご夫婦双方にとってプラスである、という方向に目線を向けられるように話されてはどうかと思います。
ただ、夫婦でそのような気遣いをしなければならない関係性は、やはり窮屈に思えます。いまはよくても、10年、20年と時を重ねるにつれて、そのような気遣いを続けることで投稿者さんが疲弊してしまうのではないかと心配です」
「夫よ、もっと大らかになって妻の活躍を喜び合おう」
――投稿者の夫に対しては、何かアドバイスはありますか。
川上敬太郎さん「夫としても年収額のプライドにとらわれている間は不要に心が乱れてしまったりしがちなのだと思います。そのようなプライドは、夫自身にとっても投稿者さんとっても百害あって一利なしではないでしょうか。
それよりも、妻である投稿者さんの活躍をともに喜べる方向に切り替える方法をともに模索していただきたいと思います」
――「夫さん、もっと心を大らかに!」ということですね。夫婦生活はこれからも長く続くわけですから。
川上敬太郎さん「そのとおりです。年収額のことに限らず、何かにつけて夫に気を使わなければならないとしたら、投稿者さんは徐々に神経をすり減らしていくことになるように思います。そのことがとても心配です。
もちろん、それで上手くバランスがとれるというご夫婦もいらっしゃることと思います。ただ、夫婦は一生をともに過ごす存在であるわけですから、どちらかが無理をする状態は極力避けたほうがよいでしょう。できれば、互いの頑張りや活躍を素直に応援し合える関係性をご夫婦で作り上げられるとよいのではないでしょうか。
今回のように価値観の相違を感じる場面が生じてしまうことは、ご夫婦が互いにしっかりと向き合うよい機会でもあるのだと思います。そういう機会を何度も乗り越えながら、ご夫婦の関係性がよりよい形へと練り上がっていくことを願っております」
(福田和郎)