80歳まで生きても、人間の生涯はわずか4000週間。この限られた時間をどう使うのか...。そう投げかけるビジネス書「限りある時間の使い方」(オリバー・バークマン著:かんき出版)が世界的なベストセラーになっています。
原題はズバリ「Four Thousand weeks」(4000週間)。タイムマネジメントに執着して、「productive」(生産的)に生きようとする人生を「むしろ哀れだ」と評するこの本が、なぜ、忙しい現代人の心に響いているのでしょうか。短い人生、何をすればいいのか。「共感」の背景を追ってみました。
米国人も「タイムマネジメント」の呪縛に悩んでいた!
何よりも衝撃的なのは、「人の人生はたった4000週間」という事実です。わたしもつい「人生は『4000週間』」のワードにひかれて本を手に取りましたが、あまりの面白さに一気読みしてしまいました。
そう、繰り返しますけど、80歳まで生きても人生はわずか「4000週間」なのです。
たとえ90歳まで長寿を謳歌したとしても、わずか4700週間たらず。まずは、この現実に背筋が凍った人も多いことでしょう。英国人ジャーナリストのバークマン氏は、「absurdly」(ばかばかしいくらい)「terrifyingly」(恐ろしいほどに)、「insultingly」(屈辱的なほどに)というインパクトのある形容で、人生の短さを警告しています。
The average human life span is absurdly, terrifyingly, insultingly short
(人の一生は、ばかばかしいほどに、恐ろしいほどに、そして屈辱的なくらい短い:著者)
Life is short. What are you going to do about that?
(人生は短い。さあ、あなたは何をする?:ニューヨークタイムズ紙)
人生は「ばかばかしいほどに短い」と認識することがスタートになります。では、ニューヨークタイムズ紙が問いかけているように、短い人生で何をすればいいのでしょうか?
この本のサブタイトルは「Time management for mortals」。直訳すると「必ず死を迎える人のためのタイムマネジメント」といったところでしょうか。
どんな「タイムマネジメント」をすれば、限りある4000週間を有意義に過ごせるのか...。「そのコツを知りたい!」という期待は、見事に裏切られました。バークマン氏は、具体的なタイムマネジメントのノウハウには触れていません。むしろ「タイムマネジメントをするな」と、その無駄を強調しているのです!
なぜ、タイムマネジメントへのアンチな姿勢が、世界的な共感を呼んでいるのでしょうか。米メディア・ニューヨークポストは、「ストレスフルな競争中毒への解毒剤だ」とその理由を分析しています。
ニューヨークポストは、バーグマン氏が「the most productive might not mean being the most fulfilled」(生産性が高い人生が、決して満足度の高い人生ではない)と気づかせてくれた、と評価しています。
効率を追うのではなく、逆にバラの香りを楽しむなど人生をスローダウンすることが、限りある人生を豊かに生きるコツだ...。そう伝えていることが、ベストセラーになった理由だとしています。
実際、バークマン氏自身、以前は「To doリスト」などありとあらゆるタイムマネジメント術に固執していたそうです。ところが、生産性を追えば追うほど「stressed」(ストレスを感じて)、「miserable」(あわれな)人生だと気づいた、という体験がこの本のベースになっています。
米国や英国のレビューを見ても、
「この本を読んで心のおもりが取れた!何かをしなくてはと焦るより、今の人生を楽しむことにします!」
「生産性の罠にやっと気がつきました!」
「生産性や効率にとらわれていた。この本のおかげで自分を解放することができました」
といった、「生産性の呪縛」から解放された、という声が目立ちます。
ゆったりとした人生を謳歌したり、効率的に仕事をこなしたりしているように見える米国人や英国人も、私たちと同じ悩みを抱えていたのですね。
「短い人生だからこそ無駄な悩みや呪縛は捨てて、ゆったりと今を生きよう」という筆者の主張が響く理由がわかる気がしました。