「世界10大リスク」の1つだったモディ政権の「政財界の癒着」
一方、アダニ・グループとモディ政権の「近さ」が金融市場の動揺をさらに大きくする可能性があると警戒するのが、第一生命経済研究所主席エコノミストの西濵徹氏だ。
リポート「『アダニ問題』で金融市場が大揺れのなかでインド中銀はどう動く?~利上げ局面の終了接近を示唆、市場の動揺にも静観の構えも、政策運営は困難の度合いが増す懸念~」(2月8日付)のなかで、西濵氏が指摘するのは、整理すると次の点だ。
(1)アダニ氏は、モディ首相と同じインド西部のグジャラート州出身であり、モディ氏が同州首相だった頃から関係を深めてきた。モディ氏が政治キャリアを駆け上がる動きと並行するようにアダニ氏も事業拡大し、「政財界の癒着」の構図が疑われてきた。
(2)昨年、アダニ・グループが独立系メディアを買収し、その後、編集権に介入した。独立系メディアが、モディ政権をはじめ歴代政権に対して「物申す」メディアだったことから、モディ政権の意向が働いたと指摘されている。
(3)こうした疑念が生じる背景には、モディ政権が発足後にさまざまな形で「メディア統制」を強めていることがある。2020年に米調査会社のユーラシアグループが発表した「世界10大リスク」の1つに「モディ化されたインド(India gets Modi-fied)」を挙げたことにも現れている。
(4)モディ政権が2月初めに公表した来年度予算は、来年に迫る次期総選挙を意識してインフラ関連投資の拡充が盛り込まれたが、アダニ・グループはモディ政権下でインフレ整備を進めてきた。野党はアダニ・グループと政権との関係の深さを追及する構えだ。
(5)さらに、仮にアダニ・グループが資金繰りの問題を理由に事業縮小を余儀なくされれば、インフラ投資が遅れるなどインドの実体経済に影響が出てくる。また、アダニ・グループへの融資を抱える国有銀行など金融セクターにも悪影響が伝播するリスクも懸念される。
こうしたことから、西濵氏はこう結んでいる。
「その意味では、今回の問題が個社の問題に留まるか、金融市場全体に影響が広がるか否かを注視する必要性は高まっている」
アダニ問題が世界一の人口を擁するインドの政局に波及すれば、金融市場にも大波が押し寄せてくるというわけだ。(福田和郎)