春闘に向けた動きが、風雲急を告げている。政府はインフレ率を超える賃上げを企業側に要請しているが、コストプッシュ型インフレに見舞われた企業にはハードルが高い。コスト増を販売価格に転嫁できなければ、賃上げ減資が確保できないからだ。
そんななか、東京商工リサーチが2023年2月7日、「価格転嫁と賃上げの相関関係調査」を発表した。
価格転嫁できている企業ほど賃上げ率が高くなること明らかになった。しかし、100%価格に反映できている企業でも、お寒い実態が......。
全額転嫁の企業は、ゼロの企業より賃上げ率1.8%高い
東京商工リサーチの分析は、同社が行なった2つの企業調査を基にしている。1つは、2022年12月初旬に行なった、「世界的な原油・原材料価格の高騰などの調達コストの増加を価格に反映できているか」というアンケート調査だ。
調査では、4889社から回答を得て、調達コストの増加の何割を価格に反映できているかという「価格転嫁率」を求めた。その結果、88.4%の企業は調達コストが増加していると答え、そのうち44.2%がコスト増加分を販売価格に反映できていないと答えた。「10割」(全額転嫁)はたったの4.4%だった。
もう1つの調査は、2022年12月初旬に行なった「2022年度に実施した賃上げの割合(=賃上げ率)」のアンケート調査だ。この調査では2359社から回答を得て、各社の賃上げ率を求めた。これによると、賃上げを実施した企業は77.5%だった。そのうち賃上げ率「3%以上」を達成したのは58.1%で、約6割を占めた。
今回の調査では、2つの調査に重複して回答した企業のデータを抽出し、分析した。その結果を表わしたのが「価格転嫁率と賃上げ率」のグラフだ【図表】。これを見ると、価格転嫁率が高い企業ほど平均賃上げ率が高いことがわかる。
価格転嫁率のレンジ別の企業数は、最多が「0割(価格転嫁できていない)」の42.3%(1000社)で、このレンジでの平均賃上げ率は2.1%だった。次いで、価格転嫁率で多かったのは「5割」で11.1%(264社)を占めた。平均賃上げ率は2.7%だ【再び図表】。
こうした結果から、調達コストの上昇分の半分を転嫁するだけで、企業の賃上げ率は平均0.6%ポイント上昇することが明らかになった。さらに、「10割(全額転嫁)」の企業では、平均賃上げ率は3.9%に達し、まったく価格転嫁できていない企業の平均賃上げ率を1.8%ポイントも上回る。
全額転嫁できた企業でも、連合が目標に掲げる5%に遠く及ばず
ただ、価格上昇分の価格転嫁を全額できた企業は、今回の調査では全体の4.3%(103社)しかない。価格転嫁ができた企業は、賃上げ原資を確保できていることを示しているが、実際は十分な価格転嫁ができている企業は圧倒的に少なく、このことも賃上げが進まない一因になっている。
東京商工リサーチではこうコメントしている。
「分析結果からは、賃上げのためにも価格転嫁の重要性が高まっていることが浮かび上がる。物価高は止まらず、世間の賃上げ圧力は高まっている。『ない袖は振れない』のだから、賃上げ実現には中小企業の価格転嫁を促す政府の後押しも欠かせない。
一方、全額転嫁できた企業でも、2022年度の平均賃上げ率(3.9%)は、連合が目標に掲げる5%には遠く及ばない。価格転嫁ができている企業にも、もう一歩踏み込んだ業績向上策が必要だ。これまでの発想では、コロナ禍の賃上げは容易でない」
(福田和郎)