就職先や転職先、投資先を選ぶとき、会社の業績だけでなく従業員数や給与の増減も気になりませんか?
上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、会社訪問アプリ「Wantedly Visit」を中心とした求人情報ビジネスを展開するウォンテッドリーです。
2010年に東京・渋谷で設立し、2012年に現在のビジネスSNSの前身を立ち上げました。2013年に現在の社名に変更。2017年に東証マザーズ(現グロース)への上場を果たしました。2021年には、社内報サービスなど企業向け新サービスをリリースしています。
2022年8月期は営業収益・営業利益とも急増
それではまず、ウォンテッドリーの近年の業績の推移を見てみましょう。
ウォンテッドリーの営業収益はここ数期、急激に伸びています。2022年8月期は4期前の2倍超となる約45億円で、前期と比べても25.8%も増えており、コロナ禍で業績不振に苦しむ会社が多い中で大きな躍進を遂げています。
営業利益も2022年8月期に大きく伸びており、前期の3倍超に。営業利益率も27.8%と高い水準に達しています。
営業収益を四半期別に見ると、「ストック収益」「フロー収益」ともに、第1四半期から第4四半期までゆるやかな右肩上がりに伸びています。一方、営業利益は第3四半期が突出しており、第2四半期の2倍以上となる4.67億円となっています。
この理由は財務諸表に記載されていませんが、「広告費を除く営業利益率」が第2四半期は55%、第3四半期は56%とほぼ同じ水準であることを踏まえると、第3四半期に広告費が一時的に抑制されたために営業利益が増えたと考えられます。
つまり、2022年8月期は、第3四半期に広告費を抑制したのにもかかわらず、通期で一貫して営業収益を伸ばすことに成功したということになります。2023年8月期以降も、広告費のかけ方次第で利益率はさらに改善されるかもしれません。
2023年8月期の業績予想は、営業収益が前期比10.1%増の49.5億円、営業利益が同23.8%増の15.5億円、営業利益率は31.3%の高水準となる見込みです。
求人情報ビジネスだが「給与」や「待遇」は掲載NG
ウォンテッドリーは「ビジネスSNS事業」の単一セグメントですが、大きく「個人向け」と「ビジネス(法人)向け」の2つのサービスを提供しています。
個人向けサービスには、SNS上で気軽に「会社訪問」ができる「Wantedly Visit」と、プロフィールを通じて個人の活躍をアピールできるつながり管理アプリの「Wantedly People」があります。
ビジネス(法人)向けサービスには上記「Wantedly Visit」をプラットフォームとした「採用」と「エンゲージメント」があります。「採用」は「Wantedly Visit」への募集掲載や記事投稿のほか、候補者の管理やスカウト(ダイレクト・リクルーティング)などが可能なサブスクリプション型管理サービスです。
「募集掲載」とは通常の媒体における求人の役割にあたる記事のことですが、Wantedlyの場合、給与や福利厚生、待遇を掲載できないことになっています。これは「共感」や「やりがい」を軸とした採用活動・転職活動を推進したいから、という思いがあるようです。
「エンゲージメント」は、オンライン社内報サービス「Story」と、社員の週次サーベイなどが行えるチームマネジメントサービス「pulse」、福利厚生サービス「Perk」で構成されています。
主な収益は、ビジネス向けサービスの「採用」で、固定金額で半年/年間の契約を基本としています。有料プランにはライトプラン、スタンダードプラン、プレミアムプランがあり、月額は3.5万円から20万円と幅広いです。
なお、2022年8月末時点で、個人の登録ユーザーは355万人、登録企業数(「Wantedly Visit」「Wantedly People」共通のWantedlyアカウント数)は4.3万社と、非常に多くの登録会員を擁しています。
個人課金にはWantedly Visitの「Premium Basic」があり、月3300円(税込)を支払うと、会社からのスカウトが10倍になるとのこと。この利用者数も公開されていませんが、仮に無料であっても転職潜在層の個人会員が多く登録していることは、登録企業にとって大きな魅力となるでしょう。
平均年齢29.9歳、平均年収681.1万円
ウォンテッドリーの連結従業員数は、2018年8月期末の94人から翌期は「業容拡大」を理由に134人に増やしたものの、2020年8月期以降は123人→120人と減らし、2022年8月期には108人に落ち着いています。単体の従業員数も同様に一時は125人に増やしましたが、2022年8月期には104人となっています。
ウォンテッドリーの従業員の平均年齢は2022年8月末現在で29.9歳と若く、平均勤続年数2.7年です。平均年間給与(単体)は681.1万円で、4期前から約241万円、前期から約72万円も増えています。平均年齢20代の会社としては高水準となっています。
ウォンテッドリーの採用ページを見ると、コーポレート系からエンジニアリング、デザイン・アート、PM・Webディレクション、編集・ライティング、マーケティング・PR、セールス・事業開発、カスタマーサクセス・サポート、コンサルティングといった非常に幅広い職種での募集が行われています。
なお、Wontedly Visit内の募集には待遇が書かれていませんが、参考までにある転職サービスのサイトには、プロジェクトマネージャー(PM)の想定年収が600~1204万円の年俸制(賞与なし)といった求人が掲載されています。
「Engagement広告費」の急減でどうなる?
ウォンテッドリーの株価は、上場した2017年に4320円の高値をつけ、さらに2019年には5770円を上場来高値を更新したことがありました。しかしその後は1000円台が続き、2021年1月には1020円まで下落。その後は徐々に回復していますが、2023年1月は2000円から3000円あたりを大きく変動しています。
ウォンテッドリーは、代表取締役の仲暁子氏と取締役の川崎禎紀氏が上場時の常勤取締役を務めていましたが、川崎氏が2022年11月に退任し、代わって恩田将司氏が取締役に就任しています。なお、仲氏は発行済株式の69.26%を所有しており、筆頭株主の持株比率が非常に高いのが特徴です。
事業等のリスクには「当社グループが運営するサイトの利用者のうち一定の割合は、特定のソーシャルメディア(「Facebook」、「Twitter」)からの流入」であり、何らかの要因によりこれまでの連携が有効に機能しなかった場合や、今後の連携が限定された場合、「当社グループサイトへの流入が想定を下回り」業績に重大な影響を及ぼす可能性がある、と記載されています。
決算説明資料の「販売管理費の四半期推移」を見ると、営業利益が大きく増加した2022年8月期の第3四半期以降、「Engagement広告費」が急激に減少していることがわかります。
「Engagement広告費」とは、FacebookやTwitterなどのSNS広告で採用されており、広告に対してユーザーがエンゲージメント(たとえばTwitterであれば、広告ツイートの「リツイート」や「いいね」)を起こしたタイミングで広告費が発生します。これが減少しているということは、エンゲージメントが下がっているということになります。
SNS広告そのものを減らしているのか、Twitterの混乱等により広告効果が上がりにくくなっているのか、いずれの理由か分かりませんが、ビジネスに大きな影響をもたらすポイントでもあり注目したいところです。ただし現状では、営業収益の減少にはつながっていない模様です。(こたつ経営研究所)