宅配大手の佐川急便は、宅配便の運賃を2023年4月1日から平均で約8%値上げすると発表した。値上げは2017年11月以来、約5年半ぶり。値上げ分を原資として、トラックドライバーの待遇改善などを進めたいという。
背景には24年度以降、物流業界でトラックドライバー不足がいっそう深刻化する「物流の2024年問題」があり、値上げの動きは他社にも広がる可能性がある。
24年4月、時間外労働の規制が始まる...収入減、離職から、さらなる人手不足も懸念
佐川急便の値上げ率は、主力の「飛脚宅配便」の小型荷物で約10%、大型荷物で約7%となる。たとえば、縦、横、高さの合計が60センチ以内の荷物の場合、関東と関西の間を運ぶ運賃は現行の880円から970円に改訂される。このほか、「飛脚クール便」「飛脚特定信書便」「飛脚ラージサイズ宅配便」の運賃も引き上げる。
佐川急便は値上げに踏み切った理由について、エネルギー価格や労働コストが上昇しているほか、24年問題に対応するため従業員や配送を委託している企業のドライバーの労働環境を改善する必要がある、と説明している。
とりわけ、この24年問題への業界の危機感は並大抵ではない。
24年4月から、トラックドライバーの時間外労働の規制が始まるのが理由だ。
これまでドライバーの時間外労働の規制はなかったが、以降は上限が年960時間に制限されるというものだ。
この規制によって、昼夜も構わず働いていたトラックドライバーの労働環境は改善する一方、このままでは全体の労働時間が減り、物流に支障をきたすことになりかねない。つまり、ドライバーが足りなくなるということだ。
具体的には、たとえば、現在は1人の乗車で可能な長距離の搬送作業が、労働時間が制限を超えないように出田目には、2人を配置しなければならない――といった事態が予想される。
ドライバー側にも、働く時間が短縮された結果、給料が減りかねない。このため、他の業種に転職する人も増え、人手不足になる懸念も高まっている。
2030年には全国の35%の荷物が運べなくなる試算も
コロナ禍による巣ごもり需要などから、宅配を利用する人はここ数年、急増している。現状でもドライバーの数は逼迫状態にあるのに、規制が始まればいっそう厳しくなることは避けられない。
野村総合研究所の試算によれば、現状のままでは2030年には全国の35%の荷物が運べなくなるという。地方ではさらに厳しく、東北地方では運べない荷物が4割を越えるとも試算されている。
佐川急便の今回の値上げは、ドライバーらの待遇を良くして、人手の確保につなげたいというのが大きな狙いといえる。この事情は物流各社に共通している。同社の動きをきっかけに、値上げの波が広がる可能性は高い。
佐川急便は現在、大口顧客に対しても個別に値上げ交渉を行っているとされており、値上げ対象も拡大していく可能性がある。
荷主である企業や消費者の理解を得られるよう、物流各社がドライバーの待遇改善を実際にどう進めていくかも注目される。(ジャーナリスト 済田経夫)