雨宮新総裁誕生のバックには、「黒幕」黒田総裁の思惑か?
こうした報道についてエコノミストはどう見ているのだろうか。
仮に雨宮氏が新総裁に就任するとすれば、「黒幕」の黒田総裁がバックにいるだろうと推測するのは第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。
熊野氏はリポート「日銀総裁に雨宮正佳氏を打診~黒田路線を極力踏襲~」(2月6日付)のなかで、岸田首相は円安・物価高を歓迎してないはずなのに、なぜ中曽氏を選ばずに、黒田路線の承継が強まるとみられる雨宮氏を選んだのか、と問いかける。
1つに「与党内には日銀の政策に円安・超低金利を厳しく要求する人は多い」という政治力学があるが、黒田氏が岸田首相に、「中曽氏を選ばなくても、今の雨宮氏のままで(岸田首相の)意向が反映されると感じさせた」ことがあるという。
いったい、どういうことか。
「12月会合では長期金利の上限を0.50%に引き上げる決定が行われた。しかも、政策委員全員一致の決定である。なぜ、黒田総裁が掌を返したのかは、未だに真相が分かっていない。
有力な観測としては、総理の意向を反映させただけではなく、次期日銀総裁が雨宮氏になっても、その意向は存続させるというメッセージを日銀側から送ろうとしたのではないかと考えられている。
黒田総裁からすれば、『次期社長が後任社長の人事に多大な影響を与えた』ということで、雨宮氏には貸しをつくることになる。岸田首相には、中曽氏を選ばなくても、今の雨宮氏のままで意向が反映されると感じさせた。黒田総裁からすれば、一石二鳥の妙手を打ったことになる。次期総裁が卓を囲んでいる現副総裁であれば、他の政策委員たちも反対票を入れるはずがない」
しかし、雨宮氏はいったん総裁になれば、黒田氏の意向から離れて、少しずつ日本銀行の政策を修正していくだろうと熊野氏はみる。
「雨宮氏が総裁になれば、局面ごとに立場の違う意見に耳を傾けて、時間をかけてYCC(イールドカーブ・コントロール)の撤廃に動くだろう。日銀にとってYCCは金縛り状態だから、特に長期金利コントロールは有名無実化したいと考えているはずだ。
それは、量的・質的金融緩和を2016年にYCCに衣替えしたのと同じ方針転換になるだろう。他の人物よりも雨宮氏に一日の長があるとすれば、そうした方針転換を主導してきたのが、まさしく雨宮氏であるからだ。
雨宮氏は、岸田首相、与党内の意見、黒田総裁などのステイクホルダーの意見を調整しながら、時間をかけてYCCの修正、その先の撤廃を実行していくだろう」
そう雨宮氏に期待するのだった。