スムーズに仕事を遂行させるためにフォロー
仕事の遂行能力におけるASDの社員の問題は以下の通りだ。
・締め切りに間に合わない
・組織化することが苦手で、優先順位をつけられない
・人と違う方法を選べ、強情で、自分のやり方を変えようとしない
ASDの社員は細部を重視するため、「全体像」を把握できない。そのため、部署の仕事に精通した同僚(上司)を配置し、毎週や毎日の「To Doリスト」を作成できるようにしたり、上司からその日に行う仕事に優先順位をつけてもらったりするなど配慮する。
また、現在行っている仕事に非常に深く集中してしまうため、仕事の移行がうまくいかず、ギアチェンジができなくなることがある。
時間ベースの要求は、正確な期限や時間枠、割り当てられた時間の中で期待される範囲と深さ、優先順位など、具体的に示す必要がある。
したがって、「あまり時間はかからないはずです」と曖昧な要求はせず、「1時間以内に仕事を完成させてください」と具体的に要求するといい。
職場では複数の仕事(マルチタスク)をすることが求められるが、ASDの社員は苦手だ。そのため、こんな方法を勧めている。
・仕事を個別にできるように、細かく分割する
・それぞれの仕事のメモや書類を収納するために、書類箱を使用する
・壁掛けカレンダーを使って、それぞれの仕事を色分けして時間帯別に分類する
このほかにも「感情抑制」や「感覚過敏」の問題への対応も紹介している。
ここではASDの社員のさまざまな困難について焦点を当てたが、一方で「忠実であり、まじめであり、一所懸命働き、集中力があり、知的であり、正確であり、論理的であり、生産的」でもあるという。本書のサブタイトル「才能をいかすためのマネージメントガイド」が示す通り、ASDの人にやさしい職場環境は、すべての社員に恩恵をもたらす、と説いている。
ASDなどと診断されておらず、そのため開示していない人もすくなくない。本書では、雇用主がそういった疑いのある社員を診断することには強く反対している。
その場合、本書で説明している行動と比較し、管理方法を利用し、最高の状態で働けるようにするようアドバイスしている。(渡辺淳悦)
「自閉スペクトラム症(ASD)社員だからうまくいく」
マーシャ・シャイナー、ジョーン・ボグデン著 梅永雄二訳
明石書店
2640円(税込)