ここ数年、自閉スペクトラム症という言葉を耳にするようになった。本書「自閉スペクトラム症(ASD)社員だからうまくいく」(明石書店)は、職場における人とのかかわり方、仕事の遂行力など、ASDの社員が職場で経験する困難な状況を通して解説。理解を深められる一冊となっている。
「自閉スペクトラム症(ASD)社員だからうまくいく」(マーシャ・シャイナー、ジョーン・ボグデン著 梅永雄二訳)明石書店
著者のマーシャ・シャイナーさんは、アメリカで自閉症スペクトラムの専門家を育成する組織と協力している非営利団体「インテグレート・オーティズム・エンプロイメント」の代表。もう1人のジョーン・ボグデンさんは、コミュニケーションスキルの分野で指導を行う専門家。
訳者の梅永雄二さんは、早稲田大学教育・総合科学学術院教育心理学専修、教授。著書に「大人のアスペルガーがわかる」「発達障害者の雇用支援ノート」などがある。
ASDの社員とのコミュニケーション
冒頭で、自閉症診断の歴史にふれ、自閉症は脳の「神経学的」障害だと説明している。脳の配線が異なっていると考えるとわかりやすいという。その結果として、感覚異常や反復行動、興味の限定、世間一般が示す社会的サインが読めない、といったことが生じる。
そのような行動は「失礼」「無礼」「迷惑」「奇妙」に見えるが、適切なサポートがあればスキルを改善し、職場できちんと働ける。
シスコ、ディズニーなどの企業主連携プログラムに参加したASDの若者たちと雇用主とのかかわりから学んだことを、本書で紹介している。
ASDの人は、変化が苦手なので長い期間同じ仕事をし続ける可能性があり、離職率が低い。集中力が高く、他の人たちが退屈で反復的だと思われる作業であっても、高い生産性を示す。こういった特性は、雇用側のメリットとなるだろう。
さらに、本書によると、アメリカではASDと診断される子どもたちの発生率は68人に1人で、彼らの両親や近親者の人口は5500万人とアメリカの人口の17%を占めるほどだ。
いま、製品の質が同じで価格も同じであれば、ASDの人を雇用し支援している企業の商品を選択する可能性も高いそうだ。
ASDの社員にはコミュニケーションにおいて、以下のような問題を生じる可能性があるという。
・しゃべりすぎたり、情報を伝えすぎたりする
・不適切なことを言う
・人の話を遮る、同じことを繰り返す
・顔の表情を読む、顔を認識することが困難
・人とのかかわりや職場の決まりへの対処が困難
本書は会話、人とのかかわり、仕事の遂行能力、時間管理など職場でのさまざまな場面で見られる、ASDの社員の問題と対処法を説明している。
たとえば、「自分の興味のある話題について、繰り返して話す」ASDの社員がいたら、「もう〇〇のことについてはたくさん話したので、他のことについて話をしましょう」と促すことだ。また、話題に興味がなくても「世間話」の仕方について指導し、ルールを教えてあげるべきだという。
ASDの社員は、会議や会話を進めるのが困難なほど、途中で口を挟んだり、話す順番を無視して話したりしてしまうことがある。そうしたときは、同僚上司が会話をしている際に、口を挟むのに適切な場合とそうでない場合のルールを提示することだ。そして、「すみませんが」と言っただけでは口を挟んでいいわけではないことを強調する。