電力業界で信じがたい不正が発覚した。大手電力が競争相手である新電力の顧客情報を不正に閲覧していたのだ。
企業向け電力販売に関し、互いに顧客獲得を制するカルテルを結んでいたとして、大手3社が摘発されたばかりだが、新たな不正発覚に、公益企業としてのコンプライアンス(法令順守)が根っこから問われる事態になっている。
関電、不正閲覧件数4万件超、委託先企業を含め1000人以上関与 営業活動への利用も
「公正な競争を揺るがすもので、深くおわび申し上げる」
関西電力の森望社長は2023年1月31日の決算記者会見でこう頭を下げた。
不祥事続きの関電だが、今回、森社長が謝罪に追い込まれたのは、2022年末に発覚した新電力の顧客情報の不正閲覧問題だ。
経済産業省の「電力・ガス取引監視等委員」が大手電力10社に報告を求めたところ、北海道電力と東京電力を除く8社で、同様の事案が発覚。業界全体に悪癖がまん延していたことになる。
なぜ他社の顧客情報が閲覧できたのか。カラクリはこうだ。
2016年の電力小売り全面自由化を受け、大手電力は送配電部門を分社化した。新規参入した新電力も、既存の送配電網を対等の条件で使えるようにするためだ。
大手との競争環境を確保するため、送配電子会社が持つ新電力の顧客情報を親会社と共有してはいけないルールになっていたが、実際には大手電力の社員はルールを無視してこっそり他社情報を盗み見していたというわけだ。
問題は22年12月、関電社員が社内システムを操作していた際、本来は閲覧できないはずの新電力の顧客情報が見られる状態になっていることに気づいたことで発覚した。
内容の悪質さでも関電は際だっていた。
関電によると、22年12月19日まで8か月間で不正閲覧件数は4万件を超え、関与した社員は委託先企業を含め1000人を上回った。閲覧した情報のうち800件以上が実際に営業活動に利用されていた。実際に12件の電力契約が、新電力から関電に切り替えられたという。
関電は組織ぐるみではないとしているが、社内で不正閲覧が常態化し、それを営業活動に利用していたことが判明した今となっては、説得力に欠けると言わざるを得ない。
昨年12月、電力カルテルで1000億円の課徴金...中部電力、中国電力、九州電力
不正閲覧が発覚した他の電力大手は「問い合わせ対応のためだった」などと主張し、悪質性は低いと釈明しているものの、電気事業法が禁じた他社情報の閲覧をしていたことに変わりはない。コンプライアンス意識の欠如は明らかだ。
思えば直近でも、電力業界の不祥事があったばかりだ。公正取引委員会が22年12月、複数の大手が相互に顧客獲得を制限するカルテルを結んだとして独占禁止法違反で処分案を通知した。
通知を受けた中部電力、中国電力、九州電力の3社と子会社には計1000億円の課徴金納付が課されることになった。だが、実は、3社にカルテルを持ちかけたのは関電で、公取委の動きをいち早く察知し、違反行為を自ら申告することで課徴金納付を回避したとされる。
言葉は悪いが、「主犯」が真っ先に「自首」して罰を免れたようなものだと批判された。
そこへきて、今回の顧客情報の不正閲覧問題である。
折からの資源高を受け、電力各社が電気料金の本格値上げに動いているが、不祥事続きの状態で消費者を納得させるのは難しいだろう。ちなみに、原発の再稼働で先行する関電は火力発電への依存度が低く、値上げ申請をしていない。
電力各社の値上げ申請は「燃料費の見込み、効率化、企業努力など厳格に審査」
「顧客情報の適切な管理は、中立性・公正性の土台だ。今回の事案は公正な競争を揺るがしかねない。極めて遺憾だ」
西村康稔経済産業相は23年1月27日の閣議後記者会見で、不正閲覧問題を厳しく糾弾した。そのうえで、電力各社の値上げ申請について「燃料費の見込み、効率化、企業努力などが行われているか厳格に審査する」と強調した。
電力業界は自ら厳しい審査を呼び込んだかたちだ。電力・ガス取引監視等委員も、不正閲覧問題で処分を検討している。政府は電力業界にどのような鉄槌を下すのか。(ジャーナリスト 白井俊郎)
◆参考記事:
J-CAST 会社ウォッチ「電力カルテル問題...計1000億円の課徴金命令へ 中国電、来春の電気料金『値上げ』申請中...審査への影響は?」(2022年12月16日付)
https://www.j-cast.com/kaisha/2022/12/16452537.html