FRB対市場のバトルが、日本銀行正常化に飛び火する?
パウエル議長VS金融市場の対立についていえば、「両者の戦いはまだまだ続く」と指摘するのは、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏だ。
木内氏は「一段と鮮明となるFRB利上げ姿勢の変化:利下げ時期を巡るFRBと金融市場の戦いは続く」(2月2日付)のなかで、「金融市場はFRBの見通しに挑んでいる」という。それは、
「金融市場は3月のFOMCで0.25%の利上げが実施された後、先行きの金利見通しをさらに引き下げ、追加利上げは見送られるとの見方を織り込んでいる。さらに、年後半には合計で0.5%の利下げ実施を織り込んでいる。パウエル議長の『なお複数回の利上げが必要』との発言や、年内は利下げを実施しないとの説明を無視している」
というのだ。
ただし、こうした金融市場の見通しには、それなりの勝算があるのではないか、と木内氏は指摘する。
「パウエル議長は、足元の物価上昇率の低下は財価格の下落によるものである一方、賃金上昇の影響を大きく受けるサービス価格の上昇圧力は依然強い点を強調している。FRBが重視するコアPCE(個人消費)価格指数(除く食料・エネルギー)は、最新12月の3か月前比年率で見るとプラス2.2%と、FRBの目標値である2%にかなり接近している」
というのがその理由だ。
こうした状況を踏まえて、木内氏はこう予測する。
「FRBが3月の次回FOMCで0.25%の利上げに動いたのち、5月のFOMCでは追加利上げを見送る可能性は相応にある。さらに、景気減速の兆候が広がれば、年後半に小幅利下げを実施する可能性はあるだろう」
その場合、4月に新総裁が就任して、金融正常化への第一歩に踏み出す可能性がある日本銀行の金融政策に、大きな影響を与えかねないというのだ。
「次回3月のFOMCを受けて、利上げ打ち止めの見通しと、早期利下げの観測が同時に広がり、一段と円高ドル安が進む可能性が考えられる。
FRBの利下げ観測が強まる場合には、日本銀行が新総裁の下で、4月以降にマイナス金利を解除するといった正常化策を一気に進める可能性は低くなる」
仮に、FRBが年内に利下げを実施しなくても、市場に利下げ観測が強まっただけで、日本銀行がマイナス金利解除を無理に実施すれば、急激な円高が生じてしまう。そうして、株安を誘発する形で、国内経済に強い逆風となってしまうからだ。(福田和郎)