賃上げできない中小企業
「週刊エコノミスト」(2023年2月7日号)の特集は、「賃上げサバイバル」。大企業を中心に「賃上げ」の表明が相次いでいるが、コスト上昇を価格転嫁できない中小企業の7割は「予定ない」という現状をレポートしている。
東京の城南信用金庫が1月に東京都や神奈川県の顧客企業738社を対象に行った調査が、中小企業の苦しい台所事情を表している。
「賃上げを予定している」と回答したのは全体の26.8%で、残りの72.8%が「賃上げを予定していない」と回答した。
賃上げを予定している企業でも、賃上げ率は1~2%未満が35.4%で、大半が3%未満だ。賃上げするには、価格転嫁などが必要だ。しかし、価格転嫁できない理由として、城南信金の川本恭治理事長は「コロナ禍で売り上げがゼロに落ち込んだことを経験しており、客が減る恐怖から値上げに踏み切れない企業が多い」と説明する。
一方、転職市場はかつてない売り手市場になっているという。こうしたなか、中小企業でも、成長を支える優秀な人材の確保のため、継続的な賃上げに取り組む事例を紹介している。
水町勇一郎・東京大学社会科学研究所教授は「正社員中心主義を脱却し、多様な働き方で生産性向上へ」と訴える。そのためにも、まずは、「賃上げを先行すべき」だという。
半導体製造受託メーカーの台湾TSMCが熊本県に進出することになり、熊本県だけではなく近隣県でも人材の争奪戦が激化し、賃上げを余儀なくされていることを報告している。
こうしたことから、第一生命経済研究所首席エコノミストの永浜利広氏は「有力な外資系企業の誘致や生産拠点の国内回帰を積極的に進めた方が、日本の特に地方で働く労働者の待遇の底上げにつながる可能性が高い」と期待している。
もっとも、人手不足から、倒産に至る中小企業が増えているとも。これについて、杜若経営法律事務所の向井蘭弁護士は「働き方改革により企業体力のない企業から淘汰させ、生き残った企業のみで、既に訪れている人口減少社会における生産性向上を図ろうとしているのではないか」と推測している。
今春の「賃上げ」ラッシュは、日本経済にとって、ひとつの転機になりそうだ。(渡辺淳悦)