高リスク金融商品「仕組み債」、トラブル相次ぐ...金融庁が問題視、金融機関は相次ぎ販売停止 問い直される「顧客本位」

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   ハイリスク・ハイリターンの複雑な金融商品「仕組み債」の販売が曲がり角に来ている。個人投資家がリスクを理解しないまま購入し、多額の損失を被ることが少なくない。金融庁が問題視し、銀行や証券会社が相次いで販売を停止する事態となっている。

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プロの機関投資家向け金融商品で、安定的な資産形成には適さない

   仕組み債は、企業の株式、国や企業が発行する国債・社債などに対して、オプション取引など「デリバティブ(金融派生商品)」を組み込んだ金融商品のこと。「債券」というと、社債などはその会社が破綻しない限り、元本は保証されるが、仕組み債は「債」と名はつくが元本割れのリスクがある。

   日経平均などの株価指数や為替などの変動に応じて、利回りが変化するような商品が代表例だ。たとえば、株価あるいは為替相場(またはその両方)などの指標が一定の枠内なら年率10%といった高利回りが得られるとうたう。だが、指標が決められた上限を上回ると早期償還になって利息が得られなくなり、逆に下限を割り込むと下落幅の何倍も元本が損なわれるリスクがある――といったものが典型だ。

   価格変動時に大きな損失が発生しかねないのは明らかで、もともとプロの機関投資家向けに開発された。安定的な資産形成には適さないものだが、近年、高齢者などを含む個人に販路が広がり、苦情・トラブルが続出している。

   金融庁の調査では、3か月で元本の8割を失う事例もあったという。金融業界の相談窓口には「老後資金の定期預金を途中解約して購入するよう勧誘され、損失を被った」などの声が寄せられている。金融庁によると苦情や相談は2019年度に672件あり、20年度は461件、21年度も341件となお高水準だ。

金融機関にはメリット...販売手数料が高い、「回転売買」で稼ぎやすい

   仕組み債が問題になった背景には、超低金利で利ざやを得にくくなった銀行や証券会社が、仕組み債の販売に力を入れたことがあるが、そこには、仕組み債の特徴が反映している。

   まず、手数料が高いといわれる。金融庁は2022年5月、仕組み債に関する調査結果を公表し、商品に含まれる平均コストが年率8~10%程度と推計しており、実質的な手数料が高いと指摘した。

   また、仕組み債はたとえば株価が上がれば早期償還になる場合、株価上昇局面では短期間に現金化され、それで新たに仕組み債を購入させるという形で、金融機関は「回転売買」のような形で手数料を稼げるのだ。

   しかも、こうした手数料は、あくまで仕組み債を組成した会社から販売した金融機関に支払われるもので、株のように顧客が売買する際にかかる手数料と違って、「目に見えない」のも問題だ。

   仕組み債はもともと、主に証券会社で売られていたが、近年は地方銀行の販売への注力ぶりが際立つ。

   金融庁によると、銀行や証券会社の販売額は2016年度の3.8兆円から20年度に4.3兆円に増えた。このうち20年度の地銀が7000億円で、4年で2倍超に増え、金融商品の販売の82%が仕組み債という地銀もあった。全国地方銀行協会によると、21年度には加盟62地銀のうち57地銀が計約9500億円と、さらに販売を伸ばしている。

   地銀は長引く超低金利に加え、地域経済の低迷や人口減もあって、融資で利ざやを稼ぐことが難しく、メガバンク等に比べ経営体力も劣る。そこで、金融商品の販売手数料が重要な収入源になっており、手数料を稼ぎやすい仕組み債のうまみが大きいのだ。

金融機関の販売実態調査が加速...かねてからの「問題」をようやく点検

   金融庁も対策に動き始めた。

   22年8月末に公表した22事業年度(22年7月~23年6月)の金融行政方針では、仕組み債を販売する金融機関の監督の強化を明記。金融機関の経営陣が取り扱いを続けるべきか否かを検討し、販売を継続する場合、その理由を聞き取るとした。

   これを受け、12月から地銀99行とグループの証券会社を含め、仕組み債の販売実態について、一斉調査に乗り出した。仕組み債以外の金融商品でも同様の問題がないかどうか調査し、地銀のコーポレートガバナンス(企業統治)の課題を総点検する方針だ。

   日本証券業協会も、投資勧誘などのガイドラインを見直す検討を始め、全国銀行協会も実態を調査している。

   批判や金融庁の監視の目の強化を受け、金融機関側も対応に乗り出している。

   有力地銀の千葉銀は22年8月から傘下の証券会社での仕組み債販売を停止。山口フィナンシャルグループ(FG)も10月に傘下2社での販売を止めた。横浜銀はグループの証券会社で個人向けの販売をとりやめた。

   メガバンクでは、三井住友銀が7月に個人向けの勧誘と販売を停止した。三菱UFJFGは11月から、銀行と証券で顧客層に応じて販売する商品を制限。

   また、証券業界では大和証券が9月、野村證券は10月から、個人向けの販売を原則として停止した。三井住友FGのSMBC日興証券も8月から個人向けは積極的な勧誘を控えている。ネット専業の楽天証券は、9月末ですべての仕組み債の取り扱いを停止した。

   ただ、仕組み債の問題は、今に始まったものではない。

   ネットの記事検索でも、たとえば2年前に「仕組み債、損失トラブル相次ぐ」(朝日新聞22年2月9日)などの記事があり、「証券会社は一般投資家に売るべきではない」という被害相談に乗る弁護士のコメントも掲載されている。

   今回、苦情が増え、社会問題化してようやく重い腰を上げたかっこうで、いかにも後手のそしりを免れない。新聞の社説も厳しく批判する。

「金融機関側は『リスクを説明した』などと反論するが、問われているのは説明の仕方だけではない。そもそも勧誘すべき商品だったかという点だ」(毎日新聞22年11月9日
「業界の規範として......『誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図るべきだ』と定めている。その約束をもう忘れたのだろうか」(読売新聞22年12月23日

   金融機関の「顧客本位」が問い直されている。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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