今年6月、市場は米デフォルトと米国債格下げリスクにおびえる?
そんななか、「今年6月、米政府がデフォルト(債務不履行)に陥り、世界の金融市場に混乱を招くリスクがある」と警鐘を鳴らすのが、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「債務上限問題で米国政府にデフォルトリスク:米政府が1兆ドルのプラチナコイン発行を検討」(1月26日付)のなかで、昨年の中間選挙の結果、米国が「ねじれ議会」になった問題を取りあげた。
現在、6月に特別措置の期限が切れる政府債務上限問題が紛糾している。下院で過半数を握る共和党が上限引き上げに応じなければ、デフォルトに陥り、政府機関は閉鎖に追い込まれる。そこで、バイデン政権はデフォルトを避けるため、「1兆ドルのプラチナコイン発行」という奇策を考えているという。
政府が1兆ドルのプラチナコインを発行し、それをFRBが買い入れれば、政府がFRBの持つ政府預金に同額が入金され、それで政府は債務を増やすことなく歳出を行うことができる、という仕掛けだ。
しかし、イエレン財務長官は「FRBが受け入れることを前提にすべきではない」と、奇策を一蹴した。中央銀行であるFRBは、議会の問題から独立した機関であるべきだからだ。逆にいうと、それほどバイデン政権は追い詰められているのだろうか。実際にデフォルトの危機が迫ったらどうなるのか。 木内氏はこう指摘する。
「政府の資金繰りが厳しくなれば、政府は債務の利払いを優先してその他の歳出を停止するだろう。それは政府機関の閉鎖であり、経済に大きな打撃を与えかねない。
金融市場は動揺を始めるだろう。その場合には、FRBが現在進めている月間1千億ドル程度の保有証券の残高削減を中断し、また、昨年秋のイングランド銀行のように、市場の安定化を図るために緊急国債買い入れに踏み切るよう迫られる事態も生じる可能性が考えられる。つまり、FRBの金融政策の大きなかく乱要因となり得るのである」
過去には、デフォルトにまでは至らなかったが、政府債務上限問題が紛糾した際、米国債が格下げになったことがあった。2011年8月のことだ。
「世界で最も信用力が高いとされた米国債の格下げは、金融市場に大きな混乱をもたらした。株価は大幅に下落し、それは消費者心理の悪化を通じて、経済に悪影響を与えたのである。他方、格下げされた米国債自体は、安全資産としてむしろ買われた。
当時と比べても米国債市場のマーケットメイクの機能が低下していることから、再び米国債が格下げされれば、今度は、米国債も売り込まれるとの見方がある。その場合には、世界的な長期金利の上昇が生じ、金融市場の混乱はより深まるのではないか」
そして、木内氏はこう結んでいる。
「6月が近づいてくると、金融市場は米国政府のデフォルトリスクや米国債格下げリスクを強く意識し始めるだろう」
(福田和郎)