防衛費の財源をめぐり、政府の借金である国債を返済する仕組みを変えようという動きが出ている。「60年償還ルール」といわれるもので、この期間を延長しようというのだ。どんな問題があるのか。
80年償還の場合、毎年の返済割合1.6%→1.25%に減少
国債は10年などの満期が決まっていて、期限がくると償還、つまり返済する必要がある。ただ、一度に返済するのは財政のやりくりとして難しいことから、満期になった国債の大半は、新たな国債=借換債を出して文字通り借り換える。
「60年償還ルール」とは、最初の発行から60年後に現金で返し終えて償還する――つまり、毎年、60分の1(1.6%)ずつ返済していくという仕組みだ。
1966年度に建設国債の発行開始と同時に始まった制度で、道路などの平均的な耐用年数から考えて「60年」と決めた。これは、石油危機に端を発した景気低迷により1975年以降、ほぼ一貫して累増している赤字国債にも踏襲されている。戦後の日本の財政制度の根幹をなすルールといえる。
具体的には、国債整理基金特別会計という国債償還のための会計に、国債残高の1.6%の額を一般会計から毎年繰り入れる。国債残高は現在、約1000兆円に膨らんでおり、2023年度当初予算案での国債償還費は16兆7561億円と、歳出総額の約15%を占めるに至っている。
たとえば、60年を延長して、80年償還にした場合、毎年の返済割合が1.6%から1.25%に減る。すると、予算の歳出の中の国債償還費が減り、その分、他の歳出に回せることになる。
萩生田政調会長主導で、税以外の財源捻出を検討する特命委を設置
さて、防衛費の財源の話である。政府は2022年末、27年度の防衛費を現状より4兆円増額する方針を決定し、うち3兆円を「歳出改革などの工夫でねん出」し、残る1兆円を増税で手当てすると決めた。
ただ、この増税方針に、自民党内、なかでも故安倍晋三元首相の意向に忠実な積極財政派を中心に反発が根強い。年末も、増税する方針は決めたが、実施時期などの決定を先送りした。
積極財政派には、少しでも増税を減らし、遅らせ、あるいは増税を撤回させようという動きがあり、その中で「60年償還ルール」見直しの声も出ているのだ。
まず口を開いたのが、萩生田光一政調会長だ。2022年12月、「ルールを見直して、償還費で(防衛費の財源を)まかなうことも検討に値する」と発言した。
自民党は、その萩生田氏主導で、防衛費増額に向けて、税以外の財源捻出を検討する特命委員会を設置。萩生田氏が自ら委員長に就任し、23年1月19日の初会合で「防衛費の財源について、もう少し腰を据えて議論をすべきだとの発言が多数寄せられた」と、特命委設置の趣旨を説明し、「防衛力強化の取り組みが絵に描いた餅にならないよう、責任ある議論を行う」と述べた。
設置当初、「まずは税外収入などを防衛費に充てるために、政府が通常国会に提出予定の関連法案審議に臨み、その後に増税幅圧縮の余地を探る方向」(大手紙政治部キャップ)とされていた。
だが、1月19日の第1回会合では財政積極財政派の議員から「増税なき防衛費増額を目指すべきだ」など、増税反対の声が相次ぎ、「(国債の)60年償還ルールを廃止すれば、財源になる」などの意見も出たという。
さすがに、24日の第2回会合では、増税以外の防衛費財源に充てる「防衛力強化基金」新設など関連法案を中心に議論したが、ここでも、60年償還ルールも直しを求める声が積極財政派から出たという。
岸田首相、増税により財源を賄う考え強調 ルール見直しにも一貫して慎重な姿勢
もちろん、こうした声に対し、財政規律派から「増税の是非を述べる場ではない」などの反論も多く出ている。
なにより、岸田文雄首相自身は「将来世代への責任」として、増税により財源を賄う考えを再三強調している。
60年償還ルール見直しについても「(返済額を抑えた分を)政策的な経費増加に使うとなると、国債発行額は増加する」「市場の信認への影響に留意する必要がある」(1月25日の衆院代表質問への答弁)と、慎重な姿勢で一貫している。
萩生田氏は自身が所属する安倍派に多い増税反対論に配慮しつつ、岸田政権の幹部として、首相の意向をくみながら議論をいかにまとめていくか、難しい対応を求められることになる。
国会では野党が一致して「防衛増税反対」を訴え、春の統一地方選にむけ、自民党攻撃を強める。
特命委などの与党内の議論とて、選挙を意識した動きでもあり、政府、与野党入り乱れた論争がどう展開するか、目が離せない。(ジャーナリスト 白井俊郎)