注意されるのは嫌だし、目立ちたくないというZ世代の新人部下...どう育てる?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE21(後編)】(前川孝雄)

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   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。

   今回の「CASE21」では、注意されるのは嫌だし、目立ちたくないというZ世代の新人部下のケースを取り上げます。

「誰しも経験する『健全な不安』」「経験を積み、遠慮なく質問することで解消できる」と伝える

   <注意されるのは嫌だし、目立ちたくないというZ世代の新人部下...どう育てる?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE21(前編)】(前川孝雄)>の続きです。

   Z世代の新入社員を受け入れた上司は、本人が抱きがちな「2つの不安」―コミュニケーションと職務遂行への不安―に配慮し、しっかり受け止めることが大切です。まずは、新入社員との初期の顔合わせ面談などで、「この両方の不安は、どの時代の先輩社員も皆同様に感じ、順番に乗り越えてきた『健全な不安』だ」と話しておくとよいでしょう。

   そして「徐々に職場に馴染み、OJTや実務を通して繰り返し経験を積むことで、少しずつ解消できる」と伝え、前向きな心の準備をさせることです。そのうえで、具体的な不安や心配に対しては、その都度相談に応じ、必要な育成を心掛けましょう。【前編】で示したCASEの例であれば、本人が壁と感じている商品知識学習のコツを伝授したり、接遇のロープレ相手になったりするとよいでしょう。

   また、新入社員は忙しそうな上司・先輩に声をかけることを想像以上に遠慮しがちです。そこで、「知らないことを何でも質問できるのは新入社員の特権」「分からないことはいつでも遠慮せず質問してよい」と伝え、態度でも示しておきましょう。

頻繁に意思疎通ができる機会・仕組みをつくる

   さらに、入社から3カ月程度は毎日、また、慣れてきたら週単位などで、定例のショートミーティングを設定するとよいでしょう。そして、業務日誌や日報(交換ノートまたはメールでもOK)などで、仕事の進捗状況や質問事項などを連絡させてアドバイスを返すなど、頻繁に意思疎通できる仕組みをつくりましょう。

   LINEやチャットに慣れてきた新入社員にとっては、日誌や日報などで文字を書くほうが、口頭でのやり取りより利用しやすいと感じることもあります。私は大学の正規過程でキャリアデザインの授業を続けて10年以上になりますが、大人数での教室で質問を募っても、手が上がらない傾向は強まるばかり。

   一方で、課題レポートやメールでは雄弁に語ってくれるため、もっぱら彼らを理解するには、テキストベースでのコミュニケーションが有効だと実感しています。何より、忙しい職場では、お互いに効率的な方法です。上司・先輩に報告・相談しやすくフォローを得やすい環境が、不安解消には効果的です。

   ただし、新入社員が「いつも上司のほうが気にかけ、声かけしてくれるもの」と捉え、受け身になることがないように注意も必要です。遠慮は払しょくしつつも、自分から積極的に質問や相談をするよう、自律的な姿勢も育てましょう。

「傾聴」で不安や思いを受け止める

   上司は、節目の時期や、新入社員に気になる様子が見受けられた時には、傾聴のためのリラックスできる環境で面談の場を設けましょう。本人の気持ちや、感じていること、考えていることを聴き取り、できるだけ本人の立場に立って不安や思いを受け止めることが大切です。

   ここでいう傾聴とは、単に相手の話を黙ってひたすら聞くことではなく、アクティブ・リスニングを指します。相手を理解するために、その言葉の中にある事実や感情を積極的につかもうと、文字通り「耳と目と心で十分に聴く」のです。

   傾聴の目的は、相手の率直な気持ちや考えを「そういうことか」と共感的に受け止め、理解を寄せることです。この態度によって、相手は「話を聴いてもらえた」「また疑問や悩みを相談できる」という安心感と信頼感を抱き、心理的安全性を醸成することができます。相手に関心を示し、近づく姿勢を表すことが大切です。

「共感」は「同意」とは異なる

   ただし、傾聴による「共感」は「同調・同意」とは異なります。上司の信念や考え方を無理に曲げる必要はなく、まず「違い」を認めればよいのです。そのうえで、受け止めた話の中身に応じて対話を進めていきます。

   その際に、簡単な質問に答える内容なら問題はありませんが、やや深い疑問や悩みへのアドバイスのためには、上司自身の内省や考え方の整理が必要な場合があります。ただ、必ずしも、上司の考えや常識が正しいとばかりとは限りません。相手に断言や助言をしてしまう前に、自分のアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)がないか、一歩立ち止まり考える機会をつくりましょう。

   ひとまず、Z世代の新入社員が「入社時の不安は誰にでもある健全なもので、自分も過度に心配しなくて大丈夫」「上司・先輩と積極的にコミュニケーションを取りながら、一歩ずつ仕事を覚えていけば解決できる」と考えられるようになれば安心です。

   不安の解消は、本人が新しい環境の中で前向きに歩みだし、自分自身で具体的な課題を一つずつ解決していくことで進んでいくものだからです。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版、2020年10月)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)。

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