「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。
今回の「CASE21」では、注意されるのは嫌だし、目立ちたくないというZ世代の新人部下のケースを取り上げます。
「新人研修の発表がうまくいかず、仕事や職場に馴染めるか不安...」
【上司(部長)】新人のAさん、なんだか元気がないようだけど、大丈夫?
【Bさん(課長)】実は、私も気になっていまして。Aさんと同期で仲良しのCさんに、さりげなく聞いてみたんです。すると、Aさん「仕事もコミュニケーションも自信がない」と悩んでいるらしいんです。
【上司】そうなのか。まあ、確かに要領がいいほうではないようだしな...。どうしたものかな。
【Bさん】実は、新人研修の発表でも、商品説明のプレゼンや接遇のロールプレイがうまくできなかったようで。同期仲間で励ましたものの、「注意されるのも恥ずかしいし、このまま仕事や職場に馴染めるか不安...」「やはり自分は一人目立つのは嫌だし、コミュニケーションが苦手だ。この仕事の適性がない」と、余計に落ち込んでいたらしいんです。
【上司】なんだ、その程度で凹むようじゃあ、先が思いやられるな。今まで甘やかされてきたんじゃないのか? 少し注意しただけで、やる気をなくして出勤拒否にでもなったら、かなわないし...。Bさん、本人によく言い聞かせて、もう少し前向きにがんばるように促してくれないかな。
【Bさん】はあ、そうですね...。少し考えてみます(うーん困ったな。どう話すかな~)
新入社員が抱えやすい「2つの不安」とは
企業が、新入社員を迎えるまであと2カ月。ただ、4月入社に向けて内定者研修を続けている会社も多いでしょうし、通年採用も次第に増えてきました。Z世代ともいわれ、かなり価値観も違ってきたともいわれる今年の新入社員。その理解と迎え入れの心構えについて、取り上げてみましょう。
新入社員は、期待と同時に不安も感じながら入社してくるものです。不安には大きく、(1)「職場の人間関係・コミュニケーション」に関わる不安と、(2)「仕事の知識や技術など職務遂行能力」に関わる不安の2つが考えられます。
上司・先輩とのコミュニケーションギャップへの不安
「人間関係・コミュニケーション」の不安は、上司・先輩にくわえ、さらにお客様や取引先等と円滑な人間関係が築けるか、きちんとコミュニケーションがとれるか、という心配です。
Z世代ともいわれる今の若手。Z世代とは、おおむね1990年代中盤から2010年代序盤までに生まれた層を指します。生まれながらにしてデジタルネイティブである、初の世代。40代以上の上司世代に比べて、育ってきた環境の中で異世代と交流する機会がとても少なかった場合があります。
SNSでのコミュニケーションも含め、同世代の仲間とのやり取りは活発でも、異世代は不得手という場合も少なくないのです。また、友人同士であっても、SNSで悪口を言われたり、仲間外れにされたりすることを恐れるため、目立つのを嫌がり、なかなか本音を明かさない傾向がありそうです。
そうなると、職場という世代や価値観が異なる人たちが共に働く組織に入ると、上司・先輩とのコミュニケーションギャップを感じやすいのです。そこで、「何をどう話せばいいか分からない」「会話・話題についていけない」「職場の雰囲気や習慣にうまく馴染めそうもない」といった不安や違和感を抱くことにつながります。
また、対面や電話でのお客様や取引先とのやり取りも、緊張の連続です。まだ自己裁量や自分のペースでは動けず、いきなり指示を受けて右往左往することでしょう。その一方で、長時間の研修や業務説明を受け身でじっと聞くことも多く、疲労が溜まるもの。緊張や疲れから、コミュニケーションの意欲がより減退することも考えられます。
自分に担当の仕事が務まるだろうか...との不安
一方の「職務遂行能力」についての不安は、自分が仕事に必要な知識や技術をきちんと身に着け、実行できるかどうか、担当の仕事が務まるかどうかという心配です。
これについては、まだ実務経験がない中で、新入社員研修などで一度に多くの知識や技術を詰め込まれることで消化不良になり、「とても覚えきれない」「自分にはとてもムリ」と不安を感じている場合も少なくありません。
具体的な実務場面を知らないうちに頭だけで学習しても、ただちに実践のイメージはわきません。入社間もない時期にすぐ身に着かないのは当然なのですが、同期より少し遅れたと感じると、とても不安を感じるのです。上司も自分の新入社員時代の気持ちを思い起こし、当時の不安や緊張感がさらに数倍のプレッシャーになっていると想像してみるとよいでしょう。
以上の点を踏まえたうえで、不安を抱えた新入社員をどう受け入れ、育てるか。<注意されるのは嫌だし、目立ちたくないというZ世代の新人部下...どう育てる?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE21(後編)】(前川孝雄)>で、解説していきます。
※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版、2020年10月)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)。