デフレから脱却する「賃金と物価の好循環」が難しい理由
ところで、日本経済が長期間続いたデフレから脱却する「賃金と物価の好循環」は起こるのだろうか。
「その期待は、今年後半にはしぼんでいくだろう」と悲観的な見方を示すのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「CPI上昇率は4%でピーク:賃金と物価の好循環は起きず、日銀の2%の物価目標達成は今後も見通せない(12月消費者物価)」(1月20日付)のなかで、消費者物価の今後の見通しを示しながら【図表2】、こう指摘した。
「当面は、食料品価格での値上げの動きが続くだろうが、海外での商品市況の下落や円高の影響から、今年後半には消費者物価上昇率の鈍化傾向はより鮮明となり、年末の消費者物価上昇率は前年比で1%台前半まで下落し、2024年春以降は1%を下回ると予想する」
つまり、日本銀行が掲げる「安定的な2%の物価上昇」には及ばないとみられるわけだ。しかも、今年の春闘で期待されるベア上昇率も低水準に終わりそうだと予想する。
「労働組合の中央組織である連合は、ベア3%程度、定期昇給分も含めて5%程度の賃上げを掲げて春闘に臨む。従来よりも1%高い目標水準である。
昨年は0%台半ばのベア、定昇込みでプラス2.2%の賃上げとなった。今年は、ベアプラス1%強、定昇含みプラス3%弱と予想する。この賃上げ率は、1997年以来の高水準である」
「しかし、この賃金上昇率は、日本銀行が掲げる2%の物価目標の達成を助けるものとしてはかなり力不足だ。日本銀行は、安定的な2%の物価上昇率と整合的な賃金上昇率の水準は3%程度と指摘している。
重要なのは、この3%の賃金上昇率は、定期昇給分を含まないベアの部分のことであることだ。定期昇給は、個人のベースで見れば賃上げになるが、労働者全体では賃上げにならない。退職していく人もいるためだ」
そして、こう結んでいる。
「(実質賃金の上昇率を上げるには)0%の労働生産性上昇率がプラス1%程度にまで高まることが必要と考えられるが、それは金融政策では達成できないものだ。政府の成長戦略、技術革新、労働者の質向上などが必要となる」
「賃金と物価の間に好循環が生じるという期待は、今年後半にはしぼんでいくだろう。物価上昇率の低下を反映して、2024年、25年の春闘では、賃金上昇率は低下していくと見込まれる」