値上げは、恩恵を受けていた高齢世代から現役世代への所得移転
同欄では、ソニーフィナンシャルグループのシニアエコノミストの渡辺浩志氏が、
「インフレで実質賃金が減少するなか、従業員の生活維持や労働力確保の観点から大企業を中心に賃上げの動きが出てきています。日銀が金融政策の正常化を進める場合もインフレが持続的・安定的であるかどうかがポイントであり、賃金上昇が本格化するかが焦点」
と指摘。ただし、
「現在の日本のインフレは、食料やエネルギーに押し上げられたコストプッシュ型。目先は電気代支援等でインフレ率は1%ポイントほど下がる見込みです。また、世界景気の減速で国際商品市況が下落していることから、日本のインフレは年後半には前年比で1%近辺まで落ち着いてくる公算です。行き過ぎたインフレが沈静化するのは望ましいものの、それで賃上げの機運まで後退してしまわないか注目されます」
という見方を示した。
同欄ではまた、第一生命経済研究所主任エコノミストの藤代宏一氏が非常にユニーク見方を示した。
「値上げは高齢世代から現役世代への所得移転と捉えることもできます。コスト増の中で、企業が値上げを我慢して収益が削られ、賃上げの原資が失われれば、賃金が上がる可能性は大幅に低下します。値上げ・賃上げが消失した1990年代半ばから2010年代まで高齢者はデフレ気味の経済環境で相対的に恩恵を受けてきました」
と、所得再配分の面から値上げを評価した。そして、
「最近の値上げによって高齢者を中心に消費者が打撃を被るのは事実ですが、企業が人件費増加の原資を確保できる素地が整ってきたことに鑑(かんが)みると、現役世代は相対的に打撃が小さくなりそうです(=高齢世代から現役世代への所得移転)。
足もとの『極端』なインフレが収まった後、『緩やかな』値上げが定着し、賃金と物価が相互刺激的に上昇することが理想的です」
と、「賃金上昇と物価上昇の好循環」に期待を示した。