「有事の金」の価格の高騰が続いている。
地金大手の田中貴金属工業が2023年1月24日に発表した金の小売価格は、1グラム当たり前日比80円高の8957円だった。昨年(2022年)4月20日に記録した過去最高の8969円以来、約9か月ぶりの高価格となった。
昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、過去最高価格を更新し続けている金。有事の発生を受けた「安全資産」として需要が急増したことが背景にあるが、これに円安ドル高傾向や世界的なインフレが加わり、まだ上がる可能性もありそうだ。
コロナ禍、ウクライナ情勢にインフレが追い討ち
田中貴金属工業によると、1月24日の金の価格(店頭小売価格)は、前日比(土日・祝日を除く前営業日の9時30分の価格との比較)80円高の1グラム当たり8957円だった。店頭買取価格は、同81円高の8837円。
1月19日(1グラム当たり8734円)から4日連続の上昇で、223円も上がった。また、この1か月でみると、昨年12月5日(8630円)から1月24日までに327円も上昇した。【下のグラフ参照】
金価格の上昇は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻がきっかけだ。それにより、「安全資産」の金が買われたことがある。金相場は2022年3月9日に、過去最高値の1グラム当たり8299円を記録。その後、やや値を下げて推移していた。
ちなみに、日本で過去2番目に金の相場価格が高かったのは、2020年8月7日の7769円だった。この時は、新型コロナウイルスの感染拡大で世界情勢への不安が蔓延し、経済へのリスクが高まったことで「有事の金」として金の需要が増えた。
戦後の日本で金価格が高騰したのは、1980年のオイルショックと2011年のリーマンショックの2回だけだったが、コロナ禍とロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けて9年ぶりに高騰となった。
ロシアの侵攻から、まもなく1年となるウクライナ情勢はいまだ先行きが見えない。それどころか、「第三次世界大戦」の引き金になる可能性もくすぶっているため、「有事の金」がさらに上昇する可能性が高まっている。
一方、そのウクライナ情勢の影響で、食料やエネルギーの価格が上昇しているのは周知のとおり。世界的なインフレが、経済活動に陰を落とす。世界の金は絶対量が決まっており、株式のような成長資産と違い不変資産であり、安心資産だ。
その金は、インフレ懸念が高まると高騰する傾向がある。現在の金価格は、1980年に高値を付けたオイルショック時と同様の動きがみられるわけだ。
そうしたなか、総務省が家庭で消費するモノやサービスの値動きをみる2022年12月の消費者物価指数を、1月20日に発表。天候による変動が大きい生鮮食品を除いた指数は、前年同月から4.0%も上昇。この上昇率は、第2次オイルショックの影響が続いていた1981年12月以来、41年ぶりの水準だった。
多くの食料品の値上げや電気代の高騰と、止まらぬ物価上昇でますます「有事の金」への注目度は増している。