新型コロナウイルスの感染対策として約2年半続いた水際対策が2022年秋に大幅に緩和されたことで、訪日外国人観光客(インバウンド)が本格的に回復しそうな勢いだ。
23年末には年率換算2000万人を越えるといった予測も出ている。ただ、インバウンドの中心だった中国人観光客の動向は不透明であるなど、今後にはさまざまな懸念材料もある。
夏以降、中国人観光客が回復すれば、コロナ禍前の6割強まで戻る予測
「特にタイや台湾からのお客様が多く、コロナ禍以前と変わらないような華やぎになっている」
東京・銀座の店の女性店員は笑顔で話す。一時は閑散としていた銀座だが、2023年の年明けは日本人だけでなく、アジアや欧米などさまざまな国の外国人で大にぎわいだ。「年末年始に金沢に旅行に行ったが、観光地や市場では外国人が多くて驚いた」と東京都在住の60代の男性も話す。
訪日客数はコロナ禍前の19年に年間3188万人に達したが、水際対策などで21年はわずか24万人へと激減した。だが、ワクチン接種などの広がりとともに、感染対策をしながら経済を回そうという環境に変わった。
政府は22年10月、インバウンドの個人旅行解禁やビザ免除の再開などに踏み切った。同じ時期に為替市場で円安が進み、日本での買い物などに割安感が高まったこともあって、訪日客は全国的に急増する。
11月には月ベースでコロナ禍前の4割程度まで戻り、その後も韓国や香港、米国をはじめ世界中から観光客が来日している。
日本総合研究所は2023年1月10日付の経済・政策レポートで、「23年末に年率換算で2000万人を越える水準まで回復する」との見通しを示した。コロナ禍前には及ばないものの、6割強までは戻るといった予測だ。
円安などの影響から、1人当たりの旅行消費単価も増加しているという。23年のインバウンドの消費額は3兆1000億円になり、GDP(国内総生産)を0.4%押し上げるとも試算している。
ただ、この試算は夏以降に中国人観光客が回復することを前提にしたという。中国を巡る動きはいまだに見通せない。
中国のコロナ急増→日本の水際対策強化...日中間で波紋
中国政府は22年12月初旬、コロナの感染拡大を封じ込める「ゼロコロナ」政策を大幅に緩和し、中国人の海外旅行は比較的自由になった。
しかし、緩和と同時に中国国内でコロナの感染が爆発的に拡大したため、日本政府は中国からの入国者に陰性証明書の提示を義務づけるなど、水際対策を強化した。この結果、日本への渡航をためらったり、水際対策のないタイやフィリピンに旅行先を変えたりといった中国人が増えているとされる。
一方、中国政府は日本に対する対抗措置として、中国を訪問するための日本でのビザ(査証)発給手続きを一時的に停止した。
日本政府は抗議しつつ、しばらくは静観する構えだが、両国の対立がエスカレートして関係が悪化した場合、訪日中国人の回復はさらに難しくなるとの懸念も出ている。
実際、約10年前には尖閣諸島を巡る対立を機に、中国人客が減少した。コロナ禍前には、中国からの旅行者は全訪日客の約3分の1を占めており、中国人が戻らなければインバウンドの本格回復も遠くなる。
コロナ禍で宿泊業が打撃、倒産も...人材流出から人手不足に
訪日客の受け入れ態勢への不安もある。
コロナ禍による旅行需要の激減で、ホテルや旅館などの宿泊業は大きな打撃を受け、倒産も相次いだ。このため、人材流出による人手不足が激しく、宿泊業の従業員数はコロナ禍前から2割程度も減っていると言われている。
実際、宿泊業者の中には「従業員が足りないので、宿泊希望者がいても部屋を空けたままにしている」といったケースは少なくない。インバウンドがコロナ禍前に一気に戻れば、大混乱となる恐れもあり得る状況だ。(ジャーナリスト 済田経夫)