「日銀ショック」金利上昇、企業4割が「マイナス影響」...ダントツ被害は住宅ローンの不動産 一方のウハウハは「円高期待」の輸入関連と銀行

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   日本銀行が昨年(2022年)12月、金融緩和策を一部修正し、長期金利の変動容認の上限を0.25%程度から0.5%程度に拡大した。それにともない、長期金利が上昇、大手銀行が住宅ローン金利を一部引き上げるなど、暮らしと経済に影響が出ている。

   そんななか、企業の4割が金利上昇によって「マイナスの影響がでる」と懸念を示していることが、帝国データバンクが2023年1月17日に発表した「特別企画:金利上昇による企業への影響アンケート」でわかった。

   「プラスの影響が出る」という企業は1割未満だ。「利息負担増」の危機感が広がっている。

  • 金利上昇にはプラス、マイナス効果があるが…(写真はイメージ)
    金利上昇にはプラス、マイナス効果があるが…(写真はイメージ)
  • 金利上昇にはプラス、マイナス効果があるが…(写真はイメージ)

住宅ローン金利上昇の打撃受けた不動産業

   調査では、「今後金利が上昇した場合、自社の事業にどのような影響を見込むか」を聞くと、「プラスの影響のほうが大きい」は8.5%にとどまり、「マイナスの影響のほうが大きい」は40.0%で最も高くなった【図表1】。

(図表1)金利上昇による事業への影響(帝国データバンクの作成)
(図表1)金利上昇による事業への影響(帝国データバンクの作成)

   プラスの影響が大きいとした企業では、金利上昇を背景とした円高によるメリットをあげるケースが代表的だ。具体的には――。

「輸入商材の販売比率が大きいため、金利上昇を背景とした円高による商品コスト低減は、利益面で良い影響が出る。2022年は円安によるコストの上昇分を売価に完全に転嫁できていなかったが、昨今の円高への進行により、コストを十分に価格転嫁できるようになっている」(各種商品卸売)

   こういった声が聞かれた。

   一方、マイナスの影響が大きいとした企業では、借入金の利息の増加が響くケースが代表的だ。たとえば――。

「借入金の支払利息の増加による利益の圧迫が一番懸念される」(プリント回路製造)とか、「顧客の金利返済負担の増加が、設備投資マインドにどの程度の影響が出るのか不安である」(造作材製造)

   もっとも、「マイナスの影響のほうが大きい企業の割合を規模別でみると、中小企業(39.2%)より大企業(44.4%)のほうが高い。また、業界別でみると、「不動産」(54.8%)が突出して高いのが特徴だ【図表2】。

(図表2)金利上昇に事業へのマイナスの影響 規模と主な業界別(帝国データバンクの作成)
(図表2)金利上昇に事業へのマイナスの影響 規模と主な業界別(帝国データバンクの作成)

   「住宅を売る商売のため、(住宅ローンなど)金利が上がると不動産が売りにくくなる」(建物売買)とか「借入金に依存する不動産投資が厳しい時代になる可能性がある」(不動産管理)といった声があがった。

「利息増のマイナス」と「円高期待のプラス」せめぎ合い

金利上昇のダメージが一番大きい不動産業(写真はイメージ)
金利上昇のダメージが一番大きい不動産業(写真はイメージ)

   企業の声を聞くと――。まず、「マイナスの影響のほうが大きい」と答えた企業には、支払利息増によって、設備投資に打撃を受けることを心配する声が目立った。

「借入金の支払利息が増大、資金調達が難しくなることが経営に与える影響は大きい」(自動車部分品・付属品製造)
「現在検討中の大型設備投資(3~4年後)を行うことになれば、金利相場次第で資金調達手段も再検討する必要がある」(有線テレビジョン放送)
「生産機械・産業機械等の設備投資の減速による受注減があると思う」(製缶板金)
「設備投資の冷え込みによる運送需要の減少が予想される」(一般貨物自動車運送)
「新工場を建設するために億単位の借り入れをする予定である。金利が上昇した場合にマイナスの影響は大きい」(工業用プラスチック製品製造)

などという声が相次いだ。

   また、

「金利上昇による利息負担が消費の冷え込みの一因となる。また、特に中小企業は新型コロナ・物価高・人件費増など苦しい状況のなかで、資金調達が必要な時期に金利が上昇したことで、さらに経費の負担が増加することも懸念される」(酒場、ビヤホール)

などと、金利上昇による景気の冷え込みを心配する声もあった。

銀行にとっては利ざや回復のメリットがある(写真はイメージ)
銀行にとっては利ざや回復のメリットがある(写真はイメージ)

   一方、「プラスの影響のほうが大きい」という企業の声では、円高が進むことへの期待が多い。

「原材料を輸入に頼っているため、円高が進むことによるコストダウンと借入金金利の負担増加の比較となるが、明らかにプラス影響の方が大きい」(一般製材)
「海外品はどうしても円高による価格低下の恩恵が大きい。1ドル=120円近辺まで戻ると競争力が大きい」(一般機械器具卸売)
「原料を外貨建てで購入しているため、円高により収益改善が見込まれる」(発電所)

   また、金融機関からは利息増による収益回復を期待する声が上がっている。

「長引くマイナス金利政策の影響から、金融機関の利ざやは縮小し、収益力は年々低下してきた。今回の日本銀行の対応で、金融機関が保有している債券の時価が下落するというマイナス面はあるものの、長期的な視点では収益力回復につながるものであり、プラスの影響が大きい」(信用金庫・同連合会)

物価高騰、消費落ち込み、人件費増加...トリプルパンチに追い討ち

今後の政策修正が注目される日本銀行(写真はイメージ)
今後の政策修正が注目される日本銀行(写真はイメージ)

   帝国データバンクでは、こうコメントしている。

「日本銀行が行った長期金利の変動幅の拡大は、金融政策運営の正常化への一歩となっており、長期的にみて日本経済にはプラスの影響が期待できる。また、過度な円安を抑えるといった効果も見られはじめている。
しかしながら、円安の進行のみが背景ではない昨今の物価の高騰や、消費の落ち込み、人件費の増加などで企業を取り巻く環境は厳しさが続くなか、金利の上昇による利息負担の増加は経営にさらなる影響を及ぼす恐れがある。
日本銀行は物価や経済の状況に十分注意した金融政策の実施のほか、政府は家計や企業の負担を把握し、それを軽減するための経済対策の迅速な実行が求められよう」

   調査は、2023年1月10日~16日、全国の企業を対象にインターネットでアンケートを行い、1390社から有効回答を得た。うち大企業は205社(14.7%)、中小企業は1185社(85.3%)だった。(福田和郎)

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