近年、大学生の就職先として人気を集めているコンサルティング業界。本書「新版コンサル業界大研究」(産学社)は、業界入門の定番書として定評が高い本である。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックという危機を受け、デジタルトランスフォーメーション(DX)への対応など、進化するコンサルティング業界のトレンドを解説。就職・転職しようとする人への格好のガイドとなるだろう。
「新版コンサル業界大研究」(コンコードエグゼクティブグループ・コンサルティングファーム研究会著)産学社
著者はコンコードエグゼクティブグループ代表取締役社長の渡辺秀和さんと、コンサルティングファーム研究会代表の山越理央さん。
渡辺さんは三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)を経て現職。山越さんはプライスウォーターハウスクーパース(現PwCアドバイザリー)を経て、現在は国内最大規模のシンクタンクに在籍。コンサルティング業界の最新動向を調査している。
コンサルティングファームの機能とは?
最初にコンサルティングファームの機能について、実際の業務の流れに沿って説明している。
まず、「専門人材レンタル」の機能を活用して調査分析し、戦略(解決策)を立案する。その際、クライアントの社内の人材を説得、交渉して、プロジェクトが円滑に進むように「触媒機能」を果たし、社外の適切な事例など「情報提供」も行う。
解決策が決まったら、クライアントの社内に周知徹底させるために、コンサルティングファームの権威を利用する「外圧機能」が活用される。さらに、システムや制度の運用をコンサルティングファーム自身が受注すれば「アウトソーシング機能」が発揮されていることになる。
コンサルティングファームには7つの類型があるという。
1 戦略系コンサルティングファーム マッキンゼー・アンド・カンパニーなど
2 総合系コンサルティングファーム/業務・IT系コンサルティングファーム アクセンチュアなど
3 シンクタンク 野村総合研究所、三菱総合研究所など
4 財務系コンサルティングファーム PwCアドバイザリーなど
5 組織人事系コンサルティングファーム ウイリス・タワーズワトソンなど
6 ブランド系コンサルティングファーム 博報堂コンサルティングなど
7 先端領域・専門領域コンサルティングファーム
自由度の高い働き方、高い報酬が魅力
コンサルタントの仕事の魅力として、最先端の経営課題の解決に携われること、クライアントから直接感謝されること、自由度の高い働き方ができること、高水準の報酬と充実したトレーニング機会を得られることを挙げている。
たとえば、外資系戦略ファームのマネジャークラス(新卒であれば30歳前後)で2000万円前後の報酬を得ているという。
コンサルティングファームには4つの階層がある。
新卒・第二新卒で入社した場合、アナリストからスタートする。先輩のコンサルタントについてクライアントへのインタビュー、チームでのディスカッションへの参加、各種情報収集と分析、資料の作成、プレゼンテーションを行う。3~4年でコンサルタントに昇格するのが一般的だそうだ。
プロジェクトで実際の作業のほとんどを担当する実働部隊が、コンサルタントだ。
コンサルタントとして数々のテーマをこなし、顧客との折衝能力、アナリストへの指示の仕方などが一定レベルに達したと判断されればマネジャーに昇格するが、全員が昇格できるわけではないという。
プロジェクト進行の責任者が、マネジャーである。クォリティ、スケジュール、予算の管理、クライアントとの折衝を行う。責任は重く、仕事もハードだが、達成感も大きい。
最上位に位置するのがパートナーだ。ファーム全体の経営を視野に入れた仕事が求められる。クライアントから仕事を受注し、会社を経営していくための営業活動が大きな仕事になる。
転職市場でも有利なコンサル出身者
コンサルティングファームで従事した経験を持つコンサル出身者(ポストコンサル)は、業界内外のハイポジションへの転職が可能だ。
コンサルタントは若いうちから経営課題解決や組織変革の経験を積んでいるため、企業の経営幹部・幹部候補として抜てきされることも多い。現代の転職市場において、経営幹部に至る「キャリアの高速道路」と呼ばれている。
東京大学など難関大学の新卒者がコンサルティングファームを目指すのも、そうしたキャリアパスが知られてきたからだ。
業界の動向として、SDGsや脱炭素化など、社会課題解決に向けたコンサルティング、デジタルトランスフォーメーションの牽引、withコロナ時代における戦略再構築の支援などを紹介している。
アクセンチュア、ボストン コンサルティング グループ、マッキンゼー・アンド・カンパニー、野村総合研究所など主要ファームの特徴と戦略、採用プロセス、トレーニング、配属方法についても詳しく説明している。
採用では通常の採用ルートとは別に、一般企業ではインターンシップと呼ばれる「ジョブ採用」を採っているところが多い。
入社試験同様、数十から数百倍という難関の筆記試験や数回の面接を突破したうえで、ジョブに参加。与えられたテーマのリサーチを行い、報告書にまとめてプレゼンテーションして、評価を受ける。
コンサルティングファームに転職するには?
中途採用の実際にも触れている。
あらゆる企業や官公庁で働いていた人がコンサルティングファームに転職しているという。大企業のエリート層が多いと思われがちだが、実際は企業の大小を問わず、あらゆる役職、部署の人々がコンサルタントになっているという。
戦略系ファームは学歴を重視する傾向があるが、それ以外のファームは戦略系ほど学歴を厳しく見ておらず、業務知識の深さや専門性の高さを評価するそうだ。
戦略系ファームは「地頭の良さ」や「論理的思考力」を重視するため、面接では新卒者同様に、「フェルミ推定」や「ケース面接」が必須だ。
ちなみに、前者は「日本におけるボールペンの年間消費本数は?」と推論させるもの。後者は「コロナ禍において居酒屋の売上を上げるには?」と尋ねるもの。どちらも正確な答えを求めているわけではなく、答えを導き出すまでの「思考のプロセス」を見ているという。
自由度の高いキャリア形成とポストコンサルの幅広い活躍が、コンサル業界の魅力になっているようだ。(渡辺淳悦)
「新版コンサル業界大研究」
コンコードエグゼクティブグループ・コンサルティングファーム研究会著
産学社
1980円(税込)