入社前からすでに違う新入社員たち
若者の価値観は二層化しているという。コストパフォーマンスを追求する「コスパ志向」についても、
「自分の履歴書に書けるようなプロジェクトに積極的に取り組みたい」
「自分の名前で仕事ができるようになりたいので、今の仕事を選んだ」
と積極的な人がいる一方で、
「上司や同僚と異なることをして睨まれるのは無意味と思う」
「給料は一定なので人より早く帰るほうが得」
と消極的に考える人がいる。同じ「コスパ志向」でもベクトルは反対だ。
そもそも、学生時代の社会的経験が異なり、入社前から違うというのだ。
入社前に社会的経験が多い人ほど、離職率が高い――つまり、「見切りが早い」というデータもあるそうだ。これを古屋さんは「新入社員の大人化」と呼んでいる。
背景としては、2016年卒から転機が見られ、先に挙げた労働法のさまざまな改正が、若者と企業の双方を変えた、と見ている。
自社単独ではもはや若手をかつてのように一人前では育て切れない、と考える企業の中には、「育てず、育ち切った人を採用する」という選択をする企業も出てきた。一部の外資系企業やベンチャー企業などだ。だが、こうしたただ乗りが許されるだろうか、と問題提起している。
最後に、古屋さんは、「会社が若者を育てる」から「若者が会社を使って育つ」という主語の転換を提唱する。
さまざまな理由で、企業の関与が薄くなる一方、社会は若者にどういう支援を提供できるのか?
ハードな仕事だが、社内トレーニングが充実しているコンサル業界が、若者の人気を集めている、という話も聞く。なぜなら、「きつい職場」でも、その後のキャリア形成において「コスパ」がよいからだ。こうした潮流もまた、「ゆるい職場」の人気がないことの裏返しなのだろうか。(渡辺淳悦)
「ゆるい職場」
古屋星斗著
中公新書ラクレ
990円(税込)