コロナ禍でビジネス街の人が減り、一時流行したキッチンカーが窮地に追い込まれたという。そんな中でも生き残ったキッチンカーも少なくない。
本書「移動販売の運営術」(同文館出版)は、キッチンカー運営のノウハウを余すところなく伝える本だ。「お客さんに習慣化してもらう」という教えは、他の小売業・飲食業でも参考になりそうだ。
「移動販売の運営術」(平山晋著)同文館出版
著者の平山晋さんは、たこ焼き専門のキッチンカー店主のかたわら、キッチンカーズライフ・アイドゥ代表として、「キッチンカーズゼミ」を開いている。著書に「小さな人気店をつくる! 移動販売のはじめ方」がある。
長く続いているキッチンカーほど、リピーターが多い
キッチンカーというと、人の多い場所に出店して、フリーの客をキャッチしているというイメージを持つ人が多いだろう。だが、実際には長く続いているキッチンカーほど、リピーターが多いという。
「キッチンカーズゼミ」に協力する店の場合、3年以上続く店だと、「リピーター8~9割、新規1~2割」という割合だそうだ。
リピーターと言っても、その中身が重要だ。
平山さんは、「毎週のように買いに来てくれるお客さん」50%、「2~3週間に1回買いに来てくれるお客さん」25%、「数か月に1回買いに来てくれるお客さん」15%、「新規のお客さん」10%の割合に近づけることを目標にしている。
多くのキッチンカーは、週に1回、同じ曜日に同じ場所に出店している。だから、習慣化されやすいという。
ところで、コロナ禍の影響はどうだったのか?
イベントが中止になり、通常出店の現場も多くは閉鎖された。平山さんは、これまでつながってきた客の元へ、料理を届けるために走っていたという。
なかには、自宅の駐車場を提供してくれたり、LINEやメールで、周囲の知人・友人に連絡してくれたりした人もいた。家族の分を買い求める人も多かった。20~30人来てくれると、100食くらいの買い上げになることも珍しくなかったという。
コロナ禍でテレワークが推奨された時期、郊外の住宅地に出店するキッチンカーが増えたが、通勤客が都心に回帰したのに合わせて、多くのキッチンカーが郊外から姿を消した。だが、習慣化するようになった客をたくさん持つキッチンカーは、今も郊外で営業を続けているそうだ。
出店の3つの形態...それぞれの戦略とは?
キッチンカーの出店には、通常出店、イベント出店、買い取り出店と3つの形態がある。
通常出店とイベント出店では、価値観が異なる、と説明している。
まず、行列について。通常出店の場合、「?盛店」と高評価を受けるが、イベントによっては、キッチンカーに人が滞留するのは好ましくない、と評価は低くなる。「完売」も通常出店では、高評価になるが、イベントによっては「欠品」は低評価になる。
通常出店は「おいしい料理」で客をつかむ。イベント出店は、天候によって来場者が激減することもあるので、「売れる時に売っておく」という心構えが必要だという。イベント会場では、どの店が「おいしそうか」で勝負が決まるので、看板や写真などの外観づくりも重要になる。
もう1つの買い取り出店では、最終的にキッチンカーの料理を食べてくれる人たちがお客さんではなく、「出店の依頼主やイベントの主催者がお客さん」だ。具体的には、不動産会社や車販売ディーラーや広告代理店などになる。
依頼主がキッチンカーに望んでいるのは、企画して依頼したアイテムを、決められた数、滞りなくサービスして渡すことだ。そのためどんなアイテムにも対応できることがポイントになる。自分が対応できないなら、違うキッチンカーにつないだ方がいい。
常に背負う「出店場所を失う」リスク
通常出店の場合、キッチンカーは「出店場所を失う」というリスクを常に背負っているという。お客さんがついていた現場でも、土地のオーナーや斡旋業者の事情によって、「明日から出店できなくなる」リスクがあるのだ。
多くのキッチンカーが、曜日ごとに週1回の出店場所を3カ所、5カ所と持っているのは、そのリスクを分散させるためだ。出店料の目安も場所によって異なる。ランチの現場では10~20%、スーパーなど商業施設では15~25%、スタジアムなど娯楽施設では25~35%という数字を示している。
通常出店の新規の現場では、1日当たり50食が当初の目標だという。
単価700円なら3万5000円になる。1人で出店するとして、ここから原材料費・出店料・ガソリン代などを引いて半分は「残したい」という商売だという。「月に20日稼働すると、35~40万円を残したい。サラリーマンだと手取り20万~30万円くらいの感覚ではないでしょうか」と書いている。
キッチンカーの選び方、営業許可の取り方、衛生対策、熱中症対策、仕入れの方法など実務的な内容も豊富だ。
2021年3月末時点で、東京都の営業許可を取得しているキッチンカーは、4608台。もうひとつ収入源を持っているキッチンカーも少なくないという。「理想の商売を実現させるために、もうひとつの収入源を持ってはじめられるのも、キッチンカーという仕事の魅力」と勧めている。
花屋とキッチンカーの複業、精神保健福祉士とキッチンカーの複業、数か月限定で島に渡って喜ばれているキッチンカーなど、ユニークなキッチンカーも紹介している。
自分のライフスタイルに合った仕事として、キッチンカーを起業する人はますます増えていきそうだ。(渡辺淳悦)
「移動販売の運営術」
平山晋著
同文館出版
1980円(税込)