テレビ番組作りの真実...制作会社で働く人たちの実態とは?

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   ふだん、あまりテレビを見ない人でも正月休みの間は、テレビを比較的長く見たかもしれない。

   本書「テレビ番組制作会社のリアリティ」(大月書店)は、テレビ局の陰で番組作りを支えるテレビ番組制作会社に光をあてた本だ。そこで働く人たちの証言を集め、日本のテレビがどう変わってゆくかを探った労作である。

「テレビ番組制作会社のリアリティ」(林香里・四方由美・北出真紀恵 編)大月書店

   本書は、GCN(Gender and Communication Network ジェンダーとコミュニケーションネットワーク)が取り組んだ共同研究の成果だ。共同代表の林香里さん(東京大学大学院情報学環教授)と四方由美さん(宮崎公立大学人文学部教授)らが編者を務めた。

意外とデスクワークが多いアシスタント・ディレクター

   外部発注や派遣が増えているテレビ制作の現場で、女性が使い捨て労働者になっているのではないかという問題意識から始まった調査研究が、本書の出発点である。

   とはいえ、調査対象者は制作会社に所属する男性11人、女性9人の計20人(正社員、契約社員、嘱託、番組契約)で、女性ばかりを対象にしていない。報道、情報ワイド番組の制作に携わった経験がある人を抽出した。

   制作の仕事に就いた理由、仕事への満足や不満、学歴、雇用形態、年収、テレビとネットの関係など多岐にわたり尋ねた。第2章「制作現場の日常風景」に、彼らの等身大の姿が描かれている。ある女性アシスタント・ディレクター(AD)の場合はこうだ。

   大学を出て3年目の20代、東京にある制作会社の正社員として情報ワイド番組の制作に携わっている。テレビ制作の裏側に興味を持ち、この業界に入った。現在の番組は2つ目の職場。

   入社1年目は、他局の情報バラエティー番組で芸能を担当していた。現在、制作している情報ワイド番組は帯番組で、そのうち週1回、決まった曜日を担当するチームの一員である。

   仕事の進め方はこうだ。打ち合わせで扱うトピックが決まると、ディレクターの作業時間に合わせて、必要な資料探しや、映像探し、映像使用の許諾のための申請書作りに追われる。帰宅できる頃には、出社後およそ半日(12時間)がたっている。

   放送曜日の前日からは、翌日のオンエア終了後までノンストップで働く。フリップ作り、カンペの確認や書き直し、テロップの発注などやることは膨大にあり、徹夜で準備を行うという。

   テレビ局で仕事をしていて楽しいと思えるのは、タレントなどの芸能人を、身近に見て肌で感じることができる瞬間だそうで、「新垣結衣さんに会えたときが一番うれしかった」と語っている。

   アシスタント・ディレクターは走り回っているイメージがあるが、意外とデスクワークが多く、仕事も断片的になりがちだという。

   「本当に、何やってるんだろうってなっちゃう子が多いんで辞めちゃうんですよ、すぐ」と話し、欲求不満が離職率の高さの一因になっている、と指摘している。

ディレクターを支える仕事の達成感とは

   アシスタント・ディレクターとして一定期間、経験を積んだのちディレクターに昇格し、やっと一人前の制作者になる。

   報道番組を担当する、ある男性ディレクターの1日はメールから始まる。すでにトピックが指示され、出社後にトピックに関する情報を収集し、ロケへ出向く。取材後、局に帰ると原稿を書いて、素材などを見て、編集作業に取りかかる。

   そうやって4、5分のVTRを作成。その後、テロップを挿入しながらオンエア。続いて、新たなトピックに取り掛かる。実働は10時間を超えるという。

   エンドロールに名前が載ったとき、一番うれしかったと多くの若手ディレクターが答えるという。それだけではない。取材相手とのつながりやSNSを通した反響など、限られた時間の中での達成感が日々の仕事を支えているようだ。

   2019年4月に働き方改革関連法が施行され、テレビ局員と一緒に制作会社の社員も同等に改革され、休日が増加するなどの変化があったという。

   その一方、しわ寄せがフリーランスと制作会社の人に出ている面もあるようだ。「同業種、同職種であるテレビ局の社員との間にある構造的な溝は、はたして是正されるのだろうか」と問題提起している。

エンドロールに名前がたくさん並ぶワケ

   さらに、制作会社のプロデューサーの仕事について、ある女性プロデューサーは「多忙な営業兼マネージャー」だと表現している。制作会社のプロデューサーは責任者ではあるが、あくまで下請けでしかなく、最終的な決定権は放送局の側にあるため、「調整役」だと語る。

   予算管理、スケジュール管理、スタッフ管理とあらゆる管理業務を一手に引き受けているのが制作会社のプロデューサーだという。番組のエンドロールには複数のプロデューサーの名前が表示されるが、所属はテレビ局、制作会社と異なることが多いそうだ。

   入社11年目で、一番エンドロール数が多いという女性プロデューサーは、「業務委託という名の体のいい派遣なんです」と話している。厳しい制作予算削減・合理化の最前線で、放送局とスタッフの狭間に立つ制作会社のプロデューサーには強いストレスがのしかかっているとも。

   第3章「番組制作者たちの軌跡と仕事への意識」では、一直線ではないキャリアパスを浮き彫りにしている。学歴は4年制大学卒業に限らず、専門学校卒業や短大卒の人も少なくない。学生時代のアルバイトがきっかけで、そのまま制作会社に入った人もいる。

   同じ会社に所属し続ける人は稀だという。また、所属会社をかわるだけでなく、担当する番組をかえて、新たな職場を獲得していくようだ。まさに「十人十色」のキャリアパスだ。低賃金と格差への不満がある一方、達成感と臨場感が報酬になっている。

   さて、ジェンダーの観点ではどうか。制作会社の正社員の女性比率が29.7%であるのに対し、契約社員は37.7%と8ポイントも高く、非正規やフリーランスの契約スタッフとなると44.9%とさらに比率が増している(「放送で働く男女に関する実態調査」四方ほか、2016年)。

   このことから、「雇用の調整弁に使われがちな雇用形態に女性が多いことがわかってきた」と書かれている。また、アシスタント・ディレクター職は女性化している。その中から、ディレクター、プロデューサーになった女性の例を複数取り上げ、「業界がジェンダーに関する不公平の解消を目指し、積極的な改善策をとること」を求めている。

   デジタル技術革新が進み、番組が「コンテンツ」として配信される時代になった。制作現場にはより高度な制作技術や高い倫理観が求められるが、果たしてその期待に応えられるのか。

   「テレビがなくなっても制作の仕事はなくならない」という若手アシスタント・ディレクターの発言を紹介し、「番組制作がテレビを離れたコンテンツ制作として展開していく可能性は大いに考えられる」と結んでいる。

   評者も駅伝中継など、いくつかの定番番組のほかは、ネット配信の視聴に明け暮れた年末年始だった。テレビをめぐる大きな変化は、もうそこまで近づいている。(渡辺淳悦)

「テレビ番組制作会社のリアリティ」
林香里・四方由美・北出真紀恵 編
大月書店
2860円(税込)

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