近年、テレビ局各社が重視するテレビ番組視聴率の意味がなくなってきたと言われるが、見逃し配信サービスを利用する人が急増したことも理由の1つだろう。
そんななか、モバイル市場専門の調査会社「MMD研究所」(東京都港区)が2023年1月10日に発表した「テレビ配信サービスに関する調査」によると、見逃し配信サービスの利用経験者は約4割に達することがわかった。
しかも、視聴時に使うデバイスのトップはスマートフォンで、テレビの2倍以上だ。テレビを持つ意味さえも、どんどんなくなってきている?
見逃し配信スマホで見る人6割、テレビは4人に1人だけ
「MMD研究所」の調査は、18歳~69歳の男女1万100人が対象だ。まず、「見逃し配信サービスを知っているか」(認知)と、「利用したことがあるか」(利用経験)を聞いた。これについて、ファネル構造(消費者の行動を認知から購買までプロセスごとに分析する手法)で調べた結果、「認知」は約8割(80.1%)、「利用経験」は4割近い38.0%だった。そのうち「現在利用」の人は31.0%となった【図表1】。
これを年代別で見ると、興味深いことに「認知」は60代(84.8%)と最も高く、年代が下がるにつれ、減っていく傾向がある。だが、逆に、「利用経験」(48.6%)と「現在利用」(36.7%)は10代が最も高く、年代が下がるにつれ、減っていく傾向があるのだ【図表1】。
これは、テレビ番組そのものへの関心は年配者ほど高いことがあげられるかもしれない。そして、見逃した時の配信サービスに対する知識も高いに違いない。しかし、実際に配信サービスを「利用することについては、抵抗があって敷居が高い可能性がある。
一方、若い人ほど動画やゲームなど関心が多岐にわたるから、テレビ番組そのものへの関心は年配者より低いかもしれない。しかし、デジタルネイティブの若い人ほどこうした配信サービスの利用に関しては長けているようだ。
このことは、見逃し配信の利用経験者に「視聴するときに使用するデバイスは何か」(複数回答)と聞いた結果をみると、うなずける。「スマートフォン」(57.6%)が最多で、次いで「PC」(34.8%)、「テレビ」(26.0%)、「タブレット」(17.2%)となった【図表2】。
6割近くの人がスマホで見ており、テレビで見る人は4人に1人だった。スマホでテレビ番組を見ることは、年配者にはハードルが高いかもしれない。
無料配信ダントツ1位「TVer」、2位「AMEMA」、3位「GYAO!」
では、どの「配信サービス」の人気が高いのだろうか。利用経験者に聞くと(複数回答可)、無料配信サービスでは「TVer」(68.0%)がダントツの1位となった。次いで、「ABEMA」(29.1%)、「GYAO!」(25.4%)、「NHKプラス」(15.2%)、「FOD」(10.5%)、「日テレ無料!(TADA)」(6.1%)となった【図表3】。
一方、有料配信サービスでは「Amazon Prime Video」(40.1%)がトップとなり、次いで「Netflix」(20.4%)、「Hulu」(14.3%)、「U‐NEXT」(11.5%)、「ABEMAプレミア」(7.7%)、「Paravi」(6.9%)、「dTV」(6.8%)となった【図表4】。
ところで、利用経験者にどこを魅力に感じて、見逃し配信サービスを利用するのか、「理由」を聞くと(複数回答可)、面白い結果が出た。
「見逃したテレビ番組が配信されていたから」(46.3%)が最も多いが、2番目に「好きな時間にテレビ番組を見たいから」(38.5%)、5番目に「好きな場所でテレビ番組を見たいから」(17.85%)などがランクインした【図表5】。
家の居間にあるテレビで見るではなく、「好きな時間」「好きな場所」で、スマホを中心にテレビ番組を見たい人が増えているようだ。
「リアルタイム配信」利用者の半数、「テレビ利用したくない」
そうした「テレビ離れ」の傾向は、18歳から69歳までの男女1万100人に聞いた「今後のテレビ放送とテレビ配信サービスの利用意向」の結果にも表れている。テレビ放送を「利用したい」または「やや利用したい」と答えた人を合わせた利用意向は75.8%だが、見逃し配信の「利用意向」は60.6%、またリアルタイム配信の利用意向も52.5%に達した【図表6】。
注目したいのは、見逃し配信とリアルタイム配信の利用者の中に、「テレビを利用したくない」(「あまり利用したくない」も含む)と答えた人が、それぞれ「見逃し配信」(39.4%)と「リアルタイム配信」(47.5%)と、約4割~5割いたことだ【図表6】。
こうした傾向が続くと、「番組さえあればテレビなんかいらない」、あるいは「配信サービスが番組コンテンツを作ってくれれば、テレビ局なんかいらない」という日が来るかもしれない。実際、動画配信サービスが独自コンテンツを作る動きが世界的に広がっているのだが......。
なお、調査は2022年12月5日~12月7日、全国の18歳~69歳の男女1万100人にアンケートをおこなった。(福田和郎)