「消費税も含めて地に足をつけた議論をしなければならない」
少子化対策の財源として、将来の消費税増税の可能性に触れた甘利明・前自民党幹事長の発言が波紋を広げている。
消費税増税を水面下で探る政府と、有権者の反発を懸念する与党の温度差は大きく、岸田文雄政権の基盤にも大きな影響を与える恐れがある。
岸田首相「異次元の少子化対策」発言の翌日に、甘利氏が反応 避けては通れない消費税増税の議論
甘利氏発言のきっかけを作ったのは岸田首相だった。
2023年1月4日の年頭記者会見で、岸田首相は「覚悟を持って先送りできない問題への挑戦を続ける」と強調したうえで、「異次元の少子化対策」に取り組むと大見得を切った。
これにいち早く反応したのが甘利氏だった。
翌5日のBSテレ東番組で「子育ては全国民に関わり、幅広く支えていく体制を取らなければなない」と指摘し、消費税増税も選択肢の一つになると明言した。
突然の甘利氏の発言に慌てた政府は「いま将来の消費税の在り方について政府として具体的な検討を行っているわけではない」(鈴木俊一財務相)など火消しに躍起になったが、甘利氏の発言はその後もぶれなかった。
6日、報道陣に対し、岸田氏が具体的に消費税増税を検討しているわけではないとする一方で、少子化対策の安定財源を確保するには消費税増税の議論を避けては通れない、と改めて持論を展開した。
霞が関では甘利氏発言を評価...財源確保は「消費税しかない」?
甘利氏の発言が注目を集めるのには理由がある。
甘利氏は岸田氏の首相就任を後押しし、政権発足とともに自民党幹事長に就任するなど政権に近い。21年の総選挙で、小選挙区で敗れて幹事長は退いたものの、現在は税制改正論議を取り仕切る自民党税制調査会の幹部を務めている。実際に消費税の増税議論が始まれば、キーマンの一人になる可能性が高い。
それだけではない。与党内には「甘利氏は、首相がなかなか言い出せないことを代弁したのではないか」との見方も広がる。
岸田首相は6日、「異次元の少子化対策」実現に向け、関係省庁による検討会を設置するよう、小倉将信こども政策担当相に指示した。
政府が6月をめどに毎年まとめる「骨太の方針」の2023年の目玉として、少子化対策強化を明記したうえで、関連予算を倍増させる方針を打ち出す段取りだ。
並行して本格的な財源探しに着手することになるが、ある中央官庁幹部は「防衛力強化の財源として既に法人税、所得税、たばこ税の課税強化を打ち出している中、新たに少子化対策の財源まで確保しようとすれば、考えられるのは消費税しかない。首相もそれを認識しているはずだ」と指摘する。
実際、霞が関には甘利氏の発言は「正論だ」と評価する声が強い。少子化対策の強化が具体的に動き出す中、政府内では水面下で消費税増税に向けた「頭の体操」(政府関係者)が始まっている。
統一地方選を控え、危機感を抱く与党 自民・世耕参院幹事長、甘利発言を否定
これに危機感を抱くのが与党だ。
「ちょっと拙速だ」。自民党の世耕弘成参院幹事長は1月7日のラジオ番組で、消費税増税に触れた甘利発言をばっさりと否定した。
与党にとって消費税増税は、常に選挙の逆風となってきた「鬼門」だ。今春に統一地方選を控える中で、甘利氏がぶち上げた消費税増税論に与党内からは「最悪のタイミングだ」と反発の声があがる。
今回の甘利発言をめぐっては、官邸と十分なすり合わせがないまま飛び出したとの指摘もあり、岸田首相周辺も当面は静観する構えだ。
ただ、どんなに議論を先送りしようと、少子化対策を大幅に強化するには安定財源の確保が必要になる。消費税増税をめぐる政府・与党内の攻防は今後、ますます激しくなりそうだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)