2023年のキーワードは「DX」「GX」「リスキリング」...その本質は「顧客価値の向上」 だが、なぜいまなのか?(大関暁夫)

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   読者の皆様、遅ればせながら本年もよろしくお願い申し上げます。さて年初に当たり今回は、昨年の企業経営を巡る情勢を象徴するトレンドキーワードから、本年企業経営者が改めて念頭におき行動に移すべきことを整理してみたいと思います。

言葉の意味、正しく理解している?

   まずなんと言っても、長引くコロナ禍で今年も引き続き強力なキーワードとなるのが「DX=デジタル・トランスフォーメーション」でしょう。DXはすでに一般用語として広く浸透していますが、その意味が広く正しく理解されているかと言えば、実はそうでもないと感じています。というのは、私自身の仕事の中で、いまだにIT化とDXを同義語として捉えているビジネスマンがけっこういる、という肌感があるからです。

   いまさらですが、IT化は英語で「Digitize」であり、デジタルテクノロジーを活用した効率化や省力化という生産性の向上です。それに対して、DXは「Digitalize」と英訳され、一般にデジタルテクノロジーを活用した「顧客価値の向上」と理解するのが肝要です。

   すなわち、IT化は内向きなデジタル化であるのに対して、DXは外向きなデジタル化なのです。キーワードは「トランスフォーメーション=変換」であり、デジタルテクノロジーを使い、顧客サービスを通じ、「顧客価値の向上」への変換をはかることこそ、DXの正体であるという点に注目です。

   同じようなことが、昨年後半に盛んに耳にするようになったSDGsがらみの新たなキーワード、「GX=グリーン・トランスフォーメーション」にも言えます。GXとカーボンニュートラル(CN)もまた同義語と誤解されているフシがあるのですが、これもまた同じような誤解です。

   CNは単純に温室効果ガスの排出と吸収を均衡させることであるのに対して、GXは温室効果ガスを増やさないクリーンエネルギーを使って、「顧客価の値向上」に資するサービスに変換することという違いがあるのです。

   さらにもうひとつ、昨年政府が5年で1兆円の予算を投じると宣言した「リスキリング=Re-skilling」というキーワードにもまた、同じような誤解が見られます。直訳は、「再びスキルを磨くこと」で一般には「学び直し」と訳されるこの言葉ですが、これが今注目を集める理由はリスキリングが単なる「学び直し」ではないからなのです。

   正しい解釈のヒントは、リスキリングで学ぶ主な対象が、「DX知識」や「DXスキル」であるという点にあります。すなわち、最終的に直接「顧客価値の向上」に資するような知識やスキルの習得であるか否かが、一般的な「学び直し」とは異なるということなのです。

   このように、今を象徴する3つのキーワードのベースに共通して存在するのは、「顧客価値の向上」であることが分かります。ではなぜいまさら、「顧客価値の向上」なのでしょう。

消極的ともいえる危機対応策から、「弱い日本」に...

   日本は約10年前後おきに、経済的に大きなダメージを被るような出来事が起きています。

   1990年代末にバブル経済崩壊のツケを払わされるかたちで金融危機があり、そのおよそ10年後の2008年秋から09年にかけては米国発のリーマンショックの余波で、我が国にも大きな経済的悪影響が及ぼされました。そしてさらにそれから10年余り、2020年春からのコロナ禍に襲われ、今経済活動には大きな変革がもたらされているわけなのです。

   90年代末の金融危機と00年代末のリーマンショックに襲われた後の企業活動では、急速に発展したITテクノロジーを活用して効率化や省力化に力を注ぎ、コスト削減、スリム化を軸に不況からの復活を遂げてきたと言えるでしょう。

   しかし、これらある意味で、消極的ともいえる危機対応策によってもたらされたものは、経済の長期デフレ化、結果として、賃金が上がることのない失われた20年と、「弱い日本」への凋落をもたらしたのです。

   これら過去の反省に立てばこそ、長引くコロナ禍経済においてはDX、GX、リスキリングという新たな概念を通じて、いまさらながらに「顧客価値の向上」が訴えられているわけです。

   内向きな体質強化やコスト削減ではなく、外向きにトップラインを押し上げる策としての「顧客価値の向上」。「顧客価値の向上」があってはじめて、経済はプラスに振れ、「弱い日本」の返上につながる。だからからこそ、国を挙げてDX、GXが叫ばれ、リスキリングに多額の国家予算が投じられるということなのです。

「多くの収益を上げるか」から「多くの顧客価値を生み出すか」への転換を

   過去にも何度となく、「顧客重視」「顧客優先」は企業活動の中で叫ばれて来たものの、先に述べたように、いざ大きな経済的危機に対峙すると、企業は守りの改善にばかり走って、成長のバッファを食いつぶしてきてしまったのです。

   結果として長期にわたるデフレ経済と低成長が、日本経済の地盤沈下を生んでしまった。だからこそ今、コロナ禍という経済的大変革の中で三度同じ轍を踏まないために、DX、GX、リスキリングの言葉を借りて企業経営者は改めて、「顧客価値の向上」に目を向けさせられている、そんな潮目の変化を感じるのです。

   言変えれば、令和5年(2023年)の企業経営における大きなテーマが、「いかに多くの収益を上げるか」から「いかに多くの顧客価値を生み出すか」への転換であるということでもあります。

   企業経営者が皆、「顧客価値の向上」が最終的には自社の収益増強につながり、さらには日本経済の新たな発展につながるとの理解をもって、自社における「顧客価値の向上」を改めて見つめ直し行動に移す――。今年はそんな一年であってほしいと願っています。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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