読者の皆様、遅ればせながら本年もよろしくお願い申し上げます。さて年初に当たり今回は、昨年の企業経営を巡る情勢を象徴するトレンドキーワードから、本年企業経営者が改めて念頭におき行動に移すべきことを整理してみたいと思います。
言葉の意味、正しく理解している?
まずなんと言っても、長引くコロナ禍で今年も引き続き強力なキーワードとなるのが「DX=デジタル・トランスフォーメーション」でしょう。DXはすでに一般用語として広く浸透していますが、その意味が広く正しく理解されているかと言えば、実はそうでもないと感じています。というのは、私自身の仕事の中で、いまだにIT化とDXを同義語として捉えているビジネスマンがけっこういる、という肌感があるからです。
いまさらですが、IT化は英語で「Digitize」であり、デジタルテクノロジーを活用した効率化や省力化という生産性の向上です。それに対して、DXは「Digitalize」と英訳され、一般にデジタルテクノロジーを活用した「顧客価値の向上」と理解するのが肝要です。
すなわち、IT化は内向きなデジタル化であるのに対して、DXは外向きなデジタル化なのです。キーワードは「トランスフォーメーション=変換」であり、デジタルテクノロジーを使い、顧客サービスを通じ、「顧客価値の向上」への変換をはかることこそ、DXの正体であるという点に注目です。
同じようなことが、昨年後半に盛んに耳にするようになったSDGsがらみの新たなキーワード、「GX=グリーン・トランスフォーメーション」にも言えます。GXとカーボンニュートラル(CN)もまた同義語と誤解されているフシがあるのですが、これもまた同じような誤解です。
CNは単純に温室効果ガスの排出と吸収を均衡させることであるのに対して、GXは温室効果ガスを増やさないクリーンエネルギーを使って、「顧客価の値向上」に資するサービスに変換することという違いがあるのです。
さらにもうひとつ、昨年政府が5年で1兆円の予算を投じると宣言した「リスキリング=Re-skilling」というキーワードにもまた、同じような誤解が見られます。直訳は、「再びスキルを磨くこと」で一般には「学び直し」と訳されるこの言葉ですが、これが今注目を集める理由はリスキリングが単なる「学び直し」ではないからなのです。
正しい解釈のヒントは、リスキリングで学ぶ主な対象が、「DX知識」や「DXスキル」であるという点にあります。すなわち、最終的に直接「顧客価値の向上」に資するような知識やスキルの習得であるか否かが、一般的な「学び直し」とは異なるということなのです。
このように、今を象徴する3つのキーワードのベースに共通して存在するのは、「顧客価値の向上」であることが分かります。ではなぜいまさら、「顧客価値の向上」なのでしょう。