米中対立の影響で、進みつつあった中国での生産態勢見直し 課題は人材確保
日本の製造業はこの20~30年の間に、生産拠点を中国など海外に移してきた。
少子高齢化によって国内市場が縮小していることに加え、輸出増加による貿易摩擦回避、円高により、国内で生産するより海外で生産した方がコストを抑えられること――などからだ。
しかし、近年は中国など近隣のアジア諸国が急速に経済成長し、海外だから人件費が安いという常識は崩れてきている。さらに、足元では、新型コロナウイルス禍やロシアによるウクライナ侵攻などの影響でエネルギー価格が急騰し、輸送コストが企業の首を絞め始めた。
「元々、米中対立の影響で、中国での生産態勢を見直そうという動きが進みつつあった。コロナ禍などを経て、円安など為替をはじめとした経済情勢が変化し、国内回帰が始まりつつある」
メーカー関係者はこう話す。
ただ、国内回帰や国内の生産体制の強化が今後も一段と加速するかについては疑問の声もある。
大きな問題の一つは国内の人手不足だ。
熊本県で新工場を建設している台湾の半導体世界大手「台湾積体電路製造(TSMC)」の動向が注目されているが、「かなり高額な給与を示すなど、人を集めるのに苦労しているようだ」(関係者)との声も聞かれる。
国内で工場を新設したとしても、特にIT系の技術者をはじめ、人材を確保するのはそう簡単ではない。最近の円安によって、「日本で働いても十分な金がかせげない」として、ベトナム人らが帰国している。
また、円安傾向がいつまで続くかは分からず、「苦労して国内工場を造っても、何かの要因で円高に戻ったら、巨額の投資が無駄になりかねない」(防メーカー関係者)との声もある。
特に、経営体力に劣る中小や中堅企業は、簡単に決断できない。今後も国内回帰が一気に進むかには、懐疑的な見方も少なくない。(ジャーナリスト 済田経夫)