総務省の調査によると、2021年度の科学技術研究費は2年ぶりに増加したが、それでも米国の約4分の1、中国の約3分の1にとどまっていることがわかった。
民間が研究費全体の約8割を負担...経営状況に影響を受ける構図に
総務省が2022年12月16日に公表した「2022年科学技術研究調査」によると、2021年度の科学技術研究費(以下、研究費)は19兆7408億円で、前年度比2.6%増加した。研究費のGDP(国内総生産)に対する比率は3.59%と同0.01ポイントの上昇した。
2012年度に17兆3246億円だった研究費は、この10年間で約2兆4000億円(13.9%)増加した。新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した2020年度には前年度比で1.7%減少したが、2021年度には同2.6%増と2年ぶりに増加に転じた。(表1)
ただ、OECD(経済協力開発機構)によると、2020年の米国の研究費は7209億ドル、中国は5838億ドルに比べ、日本は1741億ドルと大きく劣っている。
19兆7000億円超の研究費は、民間が16兆1198億円(研究費全体に占める割合81.7%)。そして、国・地方公共団体が3兆5087億円(同17.8%)、海外が1123億円(同0.6%)となっている。このように、民間が研究費全体の約8割を負担している。つまり、研究は民間企業に依存しており、その経営状況に影響を受ける構図になっているということだ。
2022年3月31日現在の研究者数は90万8300人で、前年度比2.0%増加した。2013年3月31日現在の8357人から10年間で726人(8.7%)増加しており、6年連続で増加して過去最多となった。
ただし、OECDによると、2019年時点の研究者数は米国が158万6000人、中国が210万9000人となっており、日本の68万2000人は研究費だけでなく、研究者数でも大きく下回っている。
もっとも、2021年度の研究者1人当たりの研究費は2173万円で前年度比0.6%増加し、3年ぶりの増加となった。だが、2018年度の2232万円、2019年度の2222万円を下回っている。新型コロナの影響を受けた民間企業の業績を反映しており、研究費の民間企業への依存状態が浮き彫りになっている。(表2)
産業別研究費、最多は「輸送用機械器具製造業」 売上高に対する研究費比率、最多は「医薬品製造業」
また、2021年度の研究費の用途としては、開発研究費が11兆7517億円(研究費全体に占める割合64.1%)、応用研究費が3兆7791億円(同20.6%)、基礎研究費が2兆8101億円(同15.3%)だった。
「基礎研究」は、特別な応用、用途を直接に考慮することなく、仮説や理論を形成するため、または現象や観察可能な事実に関して新しい知識を得るために行われる理論的または実験的研究。
「応用研究」は、特定の目標を定めて実用化の可能性を確かめる研究や、既に実用化されている方法に関して新たな応用方法を探索する研究。
「開発研究」は、基礎研究、応用研究および実際の経験から得た知識を活用し、付加的な知識を創出して、新しい製品、サービス、システム、装置、材料、工程等の創出または既存のこれらのものの改良を狙いとする研究。
詳しく見ていくと、企業の研究費全体(16兆1198億円)の85.8%(12兆2108億円)を製造業が占めている。
産業別研究費では、「輸送用機械器具製造業」が3兆6852億円(企業の研究費全体に占める割合25.9%)と最も多い。次いで、「医薬品製造業」の1兆3986億円(同9.8%)、「電子部品・デバイス・電子回路製造業」の1兆964億円(同7.7%)が上位3業種となっている。
売上高に対する研究費の比率では、「医薬品製造業」が10.06%と最も高い。次いで、「業務用機械器具製造業」の7.58%、「情報通信機械器具製造業」の7.03%が上位3業種。
大学の研究費は2.9%増 研究者1人当たりでも2.1%増
一方、基礎研究の中核を担う大学の研究費は3兆7839億円で、前年度比2.9%増となった。
私立が2兆113億円(大学等の研究費全体に占める割合53.2%)、国立が1兆5381億円(同40.6%)、公立が2345億円(同6.2%)となっている。研究費では私立と国公立でほぼ折半の状況だ。
研究者数は30万1200人で同0.8%増。
私立が14万2600人(研究本務者全体に占める割合47.3%)、国立が13万6600人(同45.4%)、公立が2万2000人(同7.3%)となっている。
研究者1人当たりの研究費は1256万円で、前年比2.1%増で、私立が1411万円、国立が1126万円、公立が1065万円となっている。
資源に乏しく、先進技術の開発により貿易輸出国として経済力を拡大してきた日本にとって、科学技術研究は国の基盤の要だ。
しかし、今や科学技術研究は研究費、研究者数とも米国や中国に大きく水をあけられ、後塵を拝している。日本が再び輝きを取り戻すためにも、科学技術研究への投資を進めていく必要がありそうだ。