賃金はそれなりに増えているのに、生活がどんどん苦しくなっている!
厚生労働省は2023年1月6日、働く人1人当たりの現金給与額などを示す昨年(2022年)11月の「毎月勤労統計」を発表したが、「実質賃金」が前年(2021年)同月より3.8%も減少した。消費増税の影響を受けた2014年5月以来8年半ぶりの大幅な落ち込みだ。
これで、実質賃金減少は2022年4月以降8か月連続となり、下げ幅もその期間で最悪の数字となった。物価上昇ペースに賃金の伸びが追いつかない状況が鮮明になった。私たちの生活はどうなるのか。エコノミストの分析を読み解くと――。
実質賃金指数は、2020年平均を100とすると85に低下
厚生労働省が発表した「毎月勤労統計調査 令和4年(2022年)11月分結果」(速報、従業員5人以上)や報道をまとめると、ポイントは次のとおりだ。
(1)基本給や残業代などを合わせた11月の現金給与額(名目賃金に相当)の平均は28万3895円と、前年比0.5%増で、2022年1月以来11か月連続の増加となった。ただし、前年(2021年)11月は前年(2020年)比1.8%増だったから、マイナス1.3%も減少したことが痛かった。
最大の要因はボーナスなど「特別に支払われた給与」が1万4779円と、前年比19.2%も減少したこと。10月は同2.9%増だったが、11月は製造業、運輸・郵便業、教育・学習支援などの業種で大きく減少した。
(2)現金給与額(名目賃金)を、正社員などの一般労働者とパートタイム労働者に分けると、一般労働者の平均は36万8358円(0.2%増)、パート労働者の平均は10万1888円(2.2%増)だった。前年比の伸び率は、一般労働者が1.9%増から0.2%増に縮小したのに対し、パート労働者が1.5%増から2.2%増に拡大したことが目につく。
(3)産業別では、飲食サービス業(5.6%増)、鉱業・採石業等(5.3%増)などが伸び、全体を押し上げたのに対し、教育・学習支援業(3.5%減)、製造業(2.0%減)などが全体を押し下げた。
このように、名目賃金の支給額は前年より伸びているのだが、実質賃金をみると――。
(4)物価変動を反映した実質賃金は、消費者物価指数が前年同月に比べ4.5%も上昇したため、前年同月比で3.8%の減少となった【図表1】。実質賃金指数でみると、2020年平均を100とすると、85.3となった。2020年より14.7%ポイント減ったわけで、財布の中身が2年前より約15%軽くなったことになる。
実質賃金をプラスにするには、賃上げ率3%台後半以上の高いハードル
こうした事態をエコノミストはどう見ているのか。
ヤフーニュースコメント欄では、第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏が、春闘の賃上げについて、
「岸田(文雄)首相は経済3団体が5日に開いた新年祝賀会のあいさつで、『インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい』と要請しましたが、2023年度のインフレ率の政府見通しはプラス1.7%となっております。
このため、これを春闘賃上げ率に換算すれば、ベースアップがプラス1.7%以上必要で、そこに定期昇給分が1.8%程度上乗せされますから、トータルで3%台後半以上の賃上げ率が求められることになるでしょう。アベノミクス下でのピーク時ですら2.3%台でしたから、かなり高いハードルと言えるでしょう」
と厳しい見通しを示した。
同欄では、三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の小林真一郎氏が、
「雇用者の賃金は前年比0.5%増と11か月連続でプラスを維持しましたが、9月の同2.2%増や10月の同1.4%増と比べると低い伸びとなりました。ただし、特別給与の落ち込みによるもので、所定内給与は同1.5%増と底堅い伸びを続けており、今回の弱めの数字は一時的なものと考えられます。12月分は特別給与に冬のボーナスが含まれるため大きく持ち直すと期待され、賃金全体の伸び率は再び高まると予想されます」
と説明。しかし、今後については、
「名目賃金は増加しているものの、物価高によって家計の購買力減少が目減りする状態から抜け出せていません。2023年は、春闘での賃上げ率の拡大によって名目賃金の増加基調は維持されそうですが、実際には物価上昇率を超える賃上げは難しく、いずれ消費が低迷することになりかねません」
と、危機感を示した。
春闘の結果次第では、家計の実質負担はさらに増える
「今年の家計負担は、昨年からさらに1人当たり1.9万円の増加になる可能性がある」という厳しい見通しを示すのは、前述のヤフーニュースコメント欄でも紹介した第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏だ。
永濱氏はリポート「どうなる? 2023年の物価と家計負担!」(2023年1月4日付)のなかで、公益社団法人・日本経済研究センターが公表している最新2022年12月分のESPフォーキャスト調査(民間エコノミスト約40人が分析する経済動向)などをもとに、こう述べている【図表2】。
「ESPフォーキャスト通りに今後も消費者物価が推移すると仮定すれば、2022年のインフレ率はプラス2.3%に対して2023年のインフレ率はプラス1.9%に鈍化することになる。
そして、家計の1人あたり負担増加額は、2022年に前年からプラス2.3万円(4人家族で9.1万円)増加することに加え、2023年はプラス1.9万円(4人家族で7.9万円)増加すると試算される。
インフレ率が鈍化するとはいえ、今年の春闘の結果次第では、家計の実質負担はさらに増えることには注意が必要であろう」
(福田和郎)